第173話【VS〝一輪の炎〟圧倒的な格の違いその8】

 

 若年ながら〝一輪ひとわえん〟所属は、流石の反応速度ながらも、よろめきながら手で右半分の顔を覆う。


 特殊加工されたlevel-Ⅲ素材のマスクは半壊しており、自身が世界で最も嫌う〝顔〟があらわになる。


 そこに追い討ちを掛ける様に、ニッシャの何気ない言葉が、平静を装っていたレミリシャルを


『やっと、隠れてた可愛い顔が出たじゃねぇか。ん?……何だ、そのデッケェ〝〟は……?』


 ――――そう言うのも無理はない。


 美しい顔を立ちを遮る様に、右のこめかみから斜め左下に向かって、幅3cm台の傷が深々と刻まれていたからだ。


〝治癒魔法〟は勿論の事、〝縫合〟等の最低限の処置も見るからにされていない。


 あまりにも痛々しい様を見たニッシャは、血の気が引ける感覚に加えて絶句した。


 マスク越しからでも充分に伝わる眼力と、露になった右顔が般若を彷彿とさせる。


 そのせいか、まだ塞ぎきれていない傷跡が、皮膚を裂きながら徐々に開き始めた。


 そして、血涙けつるいごの深紅しんくしずくが、頬をゆっくりと染め上げていく。


(あのデケェ傷を見るに……ありゃぁ、無抵抗かつって所だな)


 試験前と比べて冷静さを失った変貌振りに、思わず右人差指をレミリシャルに向けようとする。


 しかし、思い半ばに寸前の所で踏み留まると、〝拳〟を作り出す。


 硬く、強く握り締めた……今まで自身が、好奇な目を向けられてきた経験があるから……。


 忘れようとしている今でさえ、脳が記憶し声となって耳にささやき始める――――


『良い?朱色の髪をした〝呪われた子〟に近付いては絶対に駄目よ?あなた達も


『精霊様の器か何か知らないけど、所詮は〝人間様の道具〟……命何て無いようなもんだ!!』


『神様から平等に与えられた筈の魔力が無い上に、誰にでも噛みつく〝野良犬〟の様な姿勢……


 何度も何度も何度も頭を駆け巡る罵詈雑言は、数え出したらキリがない位に――――


 というか、〝正直聞き飽きた〟と一蹴すると、意識を再び前方に向ける。


 両者止まる一方で、ニッシャや魔法壁外まほうへきがいにいる仲間ドーマたちの視線を、敏感に感じ取ったレミリシャル。


 動揺と共に無地の白マスクは、血の紅に染まると指で引っ掻いた跡が無惨に残る。


 銀眼を血走らせながら、乱れた髪を濡れた手先で掻き上げると


『私の顔を見たな……?。見たな見たな見たな見たな見たな見たな見たな見たなっ!!?』


 それは、まるで壊れた玩具の様に、連続して喚き散らしながら狂い始める。


 背後に何か得体の知れない存在が、ニッシャに〝重圧〟としてのし掛かっていく。


 だが、彼女自身もここで怖じ気づいて引くような


 怒髪天のレミリシャルに投げ掛けた言葉は、気の効かせた上で考えに考えたものでは決してない。


 ニッシャからしたら至って普通であり〝平常運転〟の反応を示めす。


『確かに、その〝〟よ私はさ……。けど、それがどうした?まさか初めては〝旦那様〟に、ってラブリーな感じの奴か?』


『あんた、勿論〝覚悟〟は出来てるんだろうなぁ!?』


 レミリシャルの低く吠える様な声が、ニッシャの闘争本能を呼び起こす。


『〝覚悟〟……?そんなのは、


 両者一転して深呼吸を行い同様の構えを取ると、一寸足りとも視線を外さずに拳を握り固める。


 ――――瞬間、魔法壁や地面含め、至るところに深い踏み込み跡が出現。


 それに遅れて幾重にもなる衝撃波が内部を縦横無尽に突き進み、外部には地を揺らす爆発音として響き渡る。


 交じり合う〝拳〟と〝拳〟は、純粋な力と根比べの勝負であった。




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