第120話【歩む時と止まる時編その11】


 そう言いながら老婆リメイシャンが、協会入り口の隅にて隠れながら、吐き気を催しそうな嗚咽おえつを数度していた。


 度重なる晩酌と暴飲暴食の日々に老婆の体は、ある意味残像が見える程に高速で震えていた。


 すると、このシレーネではが、施設観光客や協会人とは思えない程の〝異質な魔力マナ〟を放ちながら、その中の一人が辺りを見回す様にして口を開いた。


『へぇ~、数年振りにシレーネへ帰って来たけど、見ない間に随分と協会も小洒落こじゃれたわね』


 その者は見るからに戦闘向きではないが、自らが大好きな憧れの人にちなんだ、のストライプ模様のドレスを身に纏っている。


 そして室内にかかわらず、同色の日除け傘を差す女性が、誰に言うわけでもなく独りでに喋っている。


 独り言の様なそれに対して、数歩程下がった位置にいる男。


 運動不足の体と無造作な頭に同じく不精ひげの〝THE・だらしない〟男は、気を利かせて会話を繋げようと、隣にいるもう一人の仲間に声をかけた。


『時代は移り変わる物だ。の月日が経った――――この場所も懐かしいな。そう思わないか?なぁ、レミリシャルよ?』


 格好良く会話のキャッチボールを試みた男の策は虚しく崩れ去る。


 仲間であるその者は問いに答える事はなく、のせいもあって感情を閉ざしている様だった。


 数秒の沈黙後――――先頭に立っていた、リーダーらしき女性は後方にいる二人の方へと振り返ると、威嚇いかくする様にマスクの奥にある銀眼を睨んだ。


『――――黙ってないでたまには何か喋れば?私が入隊当初から、同期のあんたの声だけは聞いた事ないんだけど!!』


 先程まで可愛らしい上に愛くるしかった、不純物が一切ない純白なその顔には、丁寧に整えられた前髪を突き抜ける様な皺が寄り、血管が枝分かれした木々の様に脈を打っている。


 そして、詰め寄りながら自らよりも数十cmは高いマスク女に向かって吐き捨てる様に、連続して言葉を発した。


『ふんっ!!だか知らないけど、その無機質な白マスクと相反する黒いローブ何て、薄気味悪いったらありゃしないわね』


 が始まったと思い深いため息を吐くと、それを聞いた男はすかさず二人の女性の間へ無理矢理入り、互いの目を見比べながら仲裁を試みた。


『まぁ、まぁ、ユリシャ嬢……そう言うでない。我等は長期の激務を共に過ごして来た仲間ではないか?――――レミリシャルも腕等組んでないで、うなづいたり身振り手振り等の反応はしないとだぞ?』


 ユリシャは勝手に目の前に入ってきた、仲間の男に対して、意固地を張った子どもの様な罵声ばせいを浴びせた。


『勝手に横槍入れて彼氏気取りすんじゃないわよ。この、〝ただのデブ〟!!バーカバーカ!!短足役立たず!!』


 突き抜ける様に両耳へと入る声に耐えきれず、思わず年下であるレミリシャルの方へと振り返るが、両手で中指を立てながら鋭い視線を男へと向けていた。


 結果――――返り討ちにい、カニ歩きの要領で二人の目の前を、くしゃくしゃになる程の泣き顔で通りすぎて行った。

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