第166話【VS〝一輪の炎〟圧倒的な格の違いその1】

 ――――〝魔法協会にある中央広場〟


 周囲は建物で囲まれており、見上げても天井はなく、自然が敷き詰められた足場と澄んだ空気が循環している。


 堅物だらけの協会人が唯一、心の荷を降ろせる場所を……との思いで作られた。


 普段は街の人間達や協会に勤める者達の憩いの場である――――だが、今は違う。


 そこには、物騒な見た目の7人の男女が、円状になりながら各々の個性を出している。


 しかしこの広場に着いてから誰一人として、言葉を発していない。


 無口無表情のまま立ち尽くし、燃ゆる脇差しを携え朱色の頭髪をした〝焔獄えんごく〟のクレス


 一人、腰を下ろしながら鋭い目付きで睨みを利かせ、口も非常に悪い朱色の癖毛が特徴の〝暴犬ぼうけん〟のニッシャ


 嗜好品とアイナが大好きな、髭面で逞しい肉体が自慢と言う、自称ワイルド系パパと名乗る〝酒煙しゅえんほのお〟のドーマ


 少しでも風が吹けば倒れてしまいそうな、長髪長身痩せ型の不健康体が平常運転の〝操糸そうし〟のギケ


 だらしない体型は昔から変わらず、隊長よりも生え散らかした髭のせいか、中年街道まっしぐらな〝壁将へきしょう〟のテンザ


 如何なる過酷な任務でさえ、無気色なマスクを外さぬため、瞳の穴から覗く銀眼以外、正体不明な〝消撃しょうげき〟のレミリシャル


 戦闘とは不釣り合い極まりない、綺羅日きらびやかなドレスを身に纏っているが、〝一輪の炎〟メンバーの中で、ドーマに次ぐ実力者と唱われる〝暗姫あんき〟の乙女ユリシャ


 協会最大戦力のドーマでさえ、どこにもだった選りすぐりの者達を束ねるのは容易ではない。


 此度こたびの自身と同じの勧誘は一種の賭け――――だが、それにも幾重にも計算された考えがあってこそ。


 ある者は〝化粧〟を直し、またある者は〝微動〟だにせず考えが読めずにいた。


 そして、長い沈黙を破ったのは、神妙な面持ちをした隊長ドーマ。


『これからニッシャとクレスには、各々の実力が〝一輪の炎〟の中で何処まで通用するか、実際に身を持って感じてもらいたい』と、話を進める。


 それを聞いたニッシャは笑みを浮かべながら『はぁっ……?用は〝試験〟って事だろ?ドーマ以外、』と、他の五人を見渡して言った。


 同じく首を縦に振り賛同したクレスは『我もそう思う。お望みとあらばこの場で


 表情変えぬままそう言うと、握った柄へと力を込める。


』という言葉に過剰反応して立ち上がるニッシャ。


『お~、クワガタちゃん。それ、?。今ここで、さっきの続きでも殺るか?』


『フッ……貴様は相変わらず口が悪いな。いぞ、かかってこい』


『だから、てめぇ何て知らねぇって言ったろ!!』


 互いに反発し合う〝水と油〟の様に、分かり合えないクレスとニッシャ。


『まぁまぁ、2人とも落ち着いて――――』


 今にも勃発しそうな2人の間に入ったドーマは、無理矢理にでも引き剥がす。


 再度、お預けを食らったニッシャは『チッ……!!』と大音量で舌打ちを鳴らす。


 そして、眉間に血管を浮き彫りにさせながら追撃で『あんたは少し黙ってろよ!?この、髭面人体模型め!!』


 隊長ドーマに対して、ここまでの暴言を吐けるものは、協会広しと言えどもニッシャだけであった。


 そんなニッシャの意見に賛同するかの如く、クレスも目を細めながら『うむ、その意見には同感だ』と、静かに呟く。


(髭面人体模型!!?そんな酷い事、アイナにも言われたことないのに……言われたことないのにぃ……)


 膝から崩れながら両手を芝生に着いて、見るからに肩を落としたドーマの精神力メンタルは――――0に等しかった。


 しかし……立場がドン底になりかけたドーマを救う天使の声が、救済の矢の如く放たれた。


『さっきから〝〟が、私達に勝てるとか何とか、好き勝手言ってるわね?』


 声の主の方へ顔を上げると、豪華な彩飾を施された〝日傘〟を差す淑女。


 その姿はまるで、〝おとぎ話のお姫様〟を彷彿させている。


 藁にもすがる思いでドーマは『と言う事はユリシャ……お前がやってくれるのか?』


 そう言いながら鼻息荒く、足早にユリシャの元へと近付いた。


 しかし、その返答はだった。


『はっ?私が汗流して闘う?……そんなの嫌。お肌が荒れるし、第一にやらなくても


(ん?……今、?。)


 限りなく目を見開いたドーマは『ねぇギケ、俺いま断られた?』と、振り向き様に言った。


『あっ隊長~、俺もパスだわ。今出せる〝最高硬度の糸〟引きちぎられたからな』


(あれれ~~。俺ってこの部隊の隊長だよね?間違いなく偉いよね?誰も言う事聞かないんだけど……)


 それに便乗したテンザが『あっ、儂も――――』


 と、短い手を上げて言おうとしたが『ん?言われなくともテンザはいいよ。戦闘向きじゃないしさっ!!』


『大丈夫。大丈夫』と手で制止するドーマは、仲間の〝優しさ〟を笑顔で断った。


 思わぬ心の傷を負ったテンザの肩に、優しく手を添えるマスク姿の人物がいた。


 頭からかかとまで黒のロングコートを身に纏い、180超えの身長のニッシャとクレスよりも、小柄な容姿と垢抜けない声。


 彼女の名はレミリシャル――――齢16にもかかわらず、次期〝消の使役者〟と噂される神童にして、現〝使役者〟ノーメンの娘である。


 レミリシャルは指二本で、クレスとニッシャを差しながら宣戦布告をした。


『仕方ない……じゃぁ、私がやるよ。そこにいるを相手すればいいんでしょ?』




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