第165話【VS〝クレス〟必然的に仕組まれた対峙その5】

 これは街の人に歓迎されているのか、はたまた……


 鼻孔に刺さる〝悪意の匂い〟さえ感じる程の、何とも言えない声援がニッシャ達を包み込む。


 ふと――――ドーマを見れば、してやったりの顔でニヤついている。


(クソッ!ドーマの奴……こんな大観衆の目の前で晒し物にしやがって!!)


 ニッシャは嫌々になりながらも、鋭い目付きで周りを見渡しながら、手を振るために利き手の右を上げる。


 それを見た観衆が、何とも言えない顔をしたしているのにふと気付く。


『あっ……』と小声で呟くと、肘から先が無い事に気付き、咄嗟に綺麗な方の左手を挙げた。


 まるで、陽の光を浴びると動く〝玩具オモチャ〟の様に、ぎこちない素振りを見せる。


 ニッシャは自分なりに精一杯の表情を作っているが、その顔はあまりにも不自然極まりなかった。


『みっ……皆、これからよろしくな~……ははっ……』と、たどたどしい言葉を口に出す。


 普段は扱いづらい〝じゃじゃ馬〟なニッシャが、緊張する様を見たドーマ。


 ニッシャに表情を見せない様、背中を向けると、思わず吹き出しそうになっていた。


(アイツ、いつもは男勝りな所あるけど……可愛い時もあるんだな!)


 日々の中で鍛練された両腕を組みながら、思わず笑みが溢れる程に感心する。


 我が娘の成長をしみじみと思い出しながら、感傷に浸るのも束の間――――自らに向けられているをしっかり捉えていた。


 恐らく〝狙い〟は、自身だと直感で気付くドーマ。


(この闘いも〝一輪の炎〟の余興って事にしたが……どうやら彼方あちらさんは、納得してないみたいだな?)


 殺気の主クレスは、幾重にもアンテナを張り巡らしているかの様に、抜刀姿勢のまま微動だにしていない。


 ドーマとクレス、両者の距離は僅か3M弱……既にの間合いであった――――だが、危険種としての〝本能〟が大音量で警鐘していた。


(何故だ。何故、勝てる想像ビジョンが全く持ってつかぬのだ?……先程の、我が全身全霊を持った一太刀でさえ、まるで赤子に接する様にあしらわれたからか?)


 クレスの内から沸き立ち無限とも呼べる、膨大な炎の魔力を肌で感じるドーマ。


 これ程まで、した〝逸材〟が存在するのにも疑問が生じる。


 しかし……重要箇所は、では決してない。


 様々な憶測を思考する中で、ドーマはある〝仮説〟を立てた。


 それは、〝机上きじょう空論くうろん〟の様な馬鹿げた話であり、理由は分かりかねないが、そうとしか考え付かない……〝〟の存在を――――


(この歳になっても追っかけファンがいるのは、〝使役者〟としての運命なのかねぇ……)


 そう、無理矢理にでも納得したドーマは、嗜好品である煙草に火を着け、煙と共に吐き叫んだ。


『んまぁ~と言う事でだ。〝一輪の炎入隊式〟はこれにて終了とする。みなはとっとと日常に戻ってくれっ!!』


 ドーマの言葉、正に咆哮の如き威力――――


 比較的軽い髪や衣服はおろか、地が揺れる程の声量。


 並びに足を地面に縫われた様に、その場で硬直する人々。


 この場においてしないレベルの〝威圧感〟を放ったドーマは、涼しい顔でニッシャ達に口を開いた。


『2人共っ、これから協会で隊員同士の顔合わせするぞっ!?』


『断ってもどうせ無理だろ?しょうがねぇ……行くよ。行かせてもらいますよ』


 ニッシャは、まるで子どもの様な悪戯顔をする髭面に、多少の恐怖を覚えながら言った。


 先頭を悠然綽々ゆうぜんしゃくしゃくと歩くドーマは、そんな事を気にしていない。


 余程機嫌が良いのか下手な鼻歌交じりで、両脇に人が避けた道を、煙草の煙を吐きながらスキップをする。


 それに続くニッシャは結局、クレスに『おい、クワガタ野郎。いつまでも突っ立ってないで行くぞ?』と、冷たくあしらった。


 ニッシャの言葉等聞かぬクレスは柄から手を離し、この場での〝決着〟を諦め次の機会に向けて歩みだす。


(主には〝時間をどれだけ掛けても良い〟と告げられたな。標的の懐に入るのも好都合……か)


 足早にドーマを追いかけるクレスは、勝ち誇った顔をするニッシャを無言で追い抜いた。


〝もはや眼中に無し〟〝土俵にすら上がれていない〟、そんな態度を取られたニッシャは、子どもの様に精一杯の抵抗を見せた。


『あの野郎っ……。まだクール振りやがって、本当にムカつくな!!アイツ何て大嫌いだっ!』と頬を膨らませながら、地面を踏み締め歩む。


 その者達の背中を見た人々は、三人の尋常ならざる者達を、なるべく、静かに見守る事しか手段はなかった。






 

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