第167話【VS〝一輪の炎〟圧倒的な格の違いその2】

 名乗りを挙げたレミリシャルに対し、高みの見物を決める〝暗姫〟ユリシャは、〝嫌み〟8割と〝褒め〟2割の言葉を投げ掛けた。


『あら、いつも無愛想な〝新入り〟が、真っ先に手を上げる何て案外先輩思いね?一体、どんな風の吹き回しかしら?』


 口元を手で上品に隠し、儚き美しさと後光差す華やかさを併せ持つユリシャ。


 しかし――――そんな先輩の優しい投げ掛けを、聞く耳持たず華麗に無視するレミリシャル。


。苦手何だよねぇ正直さ……)


 その姿はまるで、〝眼中にない〟を体現しているかの如く――――


〝華麗に決めた〟と思っていたが故に、思わず口が悪くなる。


『って……一丁前に無視するの?!ホント最近の子は可愛げがないわ!!』


 誰が見ても分かりやすく怒るユリシャは、白地レースのオペラグローブを噛み締める。


 〝とてもお洒落だから〟と言う理由で着用していた手袋。


 その指先は倍以上伸び、綺麗な歯形がクッキリと付いた事は言うまでもない。


 ニッシャとクレスの試験どころか、〝仁義なき女の戦い〟が始まろうとした矢先――――自称乙女心に詳しい男〝壁将〟テンザがなだめに入る。


『まぁまぁユリシャ嬢、少し冷静になりませんか?。貴女は気品のある美しい女性なのですから……』


 そう言って気無げなく肩に手を添えると、髭面笑顔を惜しみ無くユリシャの瞳一杯に披露した。


 美しさの欠片もない髭達磨ひげだるまに、なぐめられるのはしゃくなのか少しだけ嫌な顔をするユリシャ。


 止めどない怒りに体が震え、少しでも心を落ち着かせようと自己暗示をかける。


 テンザの瞳の中に映る自分を見て、〝私は世界で一番の女〟と、自画自賛を脳裏に繰り返す。


〝雅〟な言葉の羅列られつを幾度も復唱する事、現実時間で〝〟弱――――


『そっ……そうね!?私は〝気品〟〝優雅〟〝美徳〟を重んじる女。常に笑顔を絶やさず――――』


 怒り心頭のユリシャが、正気を取り戻したのも束の間。


 振り向き様にレミリシャルの口から『フッ……』と小馬鹿にした様な吐息が聞こえた。


 落ち着きを取り戻したユリシャの冷静さも、レミリシャルの〝氷の微笑み〟で意図も容易く崩れ去る結果となる。


『今の見た!!?……あの〝小娘〟笑ったわよね?やっぱムカつくんだけど?!勝ち誇った顔しやがって!』


 少しでも眼を離せば、殴りかかりそうなユリシャに、死に物狂いでしがみつくテンザ。


 到底、乙女とは思えない怪力で、地面をえぐりながら引きられていた。


『儂では止められませぬっ!ドーマ隊長~お助けを~!!』


 テンザの泣き言にドーマは、自分の部下ながらまるで他人事の様に


『あ~悪い。で、怒り狂った女性にあまり近付きたくないから、テンザッ!ユリシャは任せたぞっ!?』


 爽やかに親指を立てながら、面倒なことを避ける。


 そんな暴れるユリシャを尻目にレミリシャルは、ゆっくりとニッシャの目の前へと立つ。


 身長差20cmも相まって見上げる形となり、対するニッシャは、レミリシャルのマスクに当たる手前まで顔を近付ける。


『へっ、上等だよ!!先ずは、私と殺ろうってか?』


 圧倒的不利な〝片腕無し〟の状態で、臨戦態勢に入るニッシャ。


 そんな期待の新人に決して物怖ものおじせず、あくまでも冷静沈着なレミリシャル。


 次に、その口から放たれるは、〝暴犬ニッシャ〟と〝焔獄クレス〟を多大に刺激した――――


『……あんたさっきから、何を言ってるの?私はって言ったんだけど?』


 ――――その瞬間、ニッシャの怒りは頂点に到達。


 通常の人間ならば命を失うレベルで放たれる0距離の頭突きと共に、マスクから僅かに覗く銀眼に鋭い朱眼を向ける。


『あ゙んっ!?お前、今、何て言った?私に勝てる奴、何てそこの〝ドーマ〟除いて、いねぇだろうがっ!!』


 静かに聞き耳を立てていたクレスも2人に近付き、沸々と煮えたぎる怒りの炎で、後方の足跡から火柱が燃え上がる。


『小娘。それは、聞き捨てならんな?たかが、人間如きがあまり調子に乗るなよ?』


 互いに睨みを利かせる中で、ニッシャは左の拳を固く握り締め、クレスは刀の柄に手を掛け、2人を相手取るレミリシャルは魔力を両手に込めた。


 三者三様のクセ者揃いの中、『ヤバイ、ヤバイ!』と言いながら、火柱を消火するドーマは、ニッシャとクレスをレミリシャルから引き剥がす。


『これはあくまで〝試験〟だ!!ちゃんとルールを作ろう……な?』


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