第168話【VS〝一輪の炎〟圧倒的な格の違いその3】

 危険種として産まれて数十年余り、これ程までに〝挑発〟を受けたのは初めてだった。


 ドーマに制止されながらも、進撃しようとするクレスは、広場を焼き尽くす程の炎を、脇差しへと込ながら静かに怒りを表す。


『試験等、我には関係のない。強者が相まみれば、命を賭して死ぬか否かだ。後悔するがいい、死合の申し出をした事を……』


 一言一言に殺気が上乗せされているかの如く、周囲に漂う空気が重苦しくなる。


 しかし――――数々の死線を潜り抜けてきた一輪の炎の隊員達にとって、この程度の、日常茶飯事に過ぎない。


『まぁまぁ、落ち着いてよクレスさんよ?ここでは、色々と燃えちゃうから〝炎〟は無しな!?』


 それをいつも笑顔で止めるのは、隊長であるドーマの勤め。


 両者が死なない程度に見守り、互いに分かり合うために拳と拳、をぶつけ合うための一種の恒例行事だ。


 ニッシャに頭突きされたせいで、レミリシャルの特別製マスクには、右から斜め下に掛けて大きな亀裂が入っていた。


(私の超硬性仮面コレ。一応、level-Ⅲ危険種の甲羅が材料なんだけどな……相手も無事じゃない筈――――あっ、めっちゃ元気にしてる)


 心の内で以外と心配しているレミリシャルを他所に、少しだけ額が赤くなっているニッシャは空に向かい叫んでいた。


 その声量、正に犬の遠吠えの如き迫力

『うおおぉぉぉっっ!!』


 ドーマの仲裁に冷静を取り戻したレミリシャルは、立ち尽くしながら思考を巡らしていた。


(やっぱり私、血の気の多い人は苦手だな……を言ったのに、怒る意味が分からないよ)


 そんな、一触即発の光景を離れた場所で見物する他の三人は、慌てる素振りもなく余裕の表情だ。 


 理由は、の巻き添えを喰らわぬ様に、〝壁将のテンザ〟が予め強力な防壁魔法を唱えていたから。


 ドーマ達を中心として厚さ七百mm強、数十M四方に及ぶ広場全体と上空を守る正に鉄壁の魔法。


 指定箇所をドーム状におおえるこの魔法は、level-Ⅳ危険種の猛攻でさえ程度、耐えることが出来る。


 そんなテンザが作り出した透明の障壁を椅子代わりに、淹れた紅茶を香りから楽しむ優雅なユリシャ。


『あら、今回の新入りさんは威勢が良くて、案外格好いいわね。まぁ、には勝てませんけど!!ウフフフッ……』


 想い人の顔を想像して頬を赤らませながら、天にも登る勢いで絶賛悶絶していた。


 そんな恋する乙女活動――――略して〝恋活こいかつ〟をテンザは、まるで心頭滅却しんとうめっきゃくした様に優しく微笑む。


『いや~、ユリシャ嬢は今日も美しいですね~。紅茶どうです?茶葉替えたんですよ?。あ~、出来るならば〝試験〟に混ざりたかったな~……!』


 甲高い声と相反して肥えた体と髭面は、体を左右に揺らしながらそう言う。


『おいおいテンザ……またしばらくは、俺とお前でが続きそうだぞ?第一俺ら、戦闘向きじゃねぇしさ』


 そう、テンザの肩を叩きながら項垂うなだれるギケは、左手だけで一人綾取あやりをして遊んでいた。

 

 一方、防壁の中ではドーマがクレスを、レミリシャルがニッシャと対峙している。


『クレスさんよぉ……恐らくだが狙いは俺だろ?後で〝入隊試験〟やってくれ!!なっ?』


『あぁ、そうしよう。貴様の仲間の小娘如き、即刻片付ける』


『おい、マスク何てしてると可愛い顔が台無しじゃねぇか?!!』


のは目をつむるけど、その高圧的な態度を少しは治したら?』


 燃えるクレスを自らの炎へと変換しながら、片手で静止するドーマは

『まだ、開戦は早いぞ?これから〝仲間〟になるんだし、何より5つのルールを決めないとしさ』と、もう一方の五指を説明と共に順番に折り曲げる。


 ①魔力、武器等の使用は無し

 ②無闇な殺生は御法度

 ③戦場は協会広場内に限る

 ④当然、手を抜かない事


『最後に、終わったら相手を褒める!!。これを守ってもらうぞ?』


 決まり事を聞いて少しだけ考えたニッシャは、小難しい顔をしながら言った。


『はいはい、分かったよ。纏めれると、でいればいいんだろ?』


 珍しく聞き分けの良いニッシャに、鍛えられた太い指を差しながら髭面の笑顔をする。


『正解っ!!レミリとクレスは、このルールで問題ないか?』


 ドーマの熱い視線を受けた2人は、淡々と『『問題なし』』とだけ答えた。


 案外、聞き分け良いな……と思いながらも

『んじゃあ、俺がこの防壁をしてくれ!!』


 そう告げたドーマは、睨み合う三者に背を向けて、胸ポケットから煙草の箱を出しながら防壁の端へと歩いた。


 時にして僅か2秒程――――その瞬間、凄まじい轟音と衝撃波が容赦なく襲う。


 突然の出来事に顔面から滑べり、数本の煙草が辺りへと散乱する。


 答えは至極単純――――……

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る