第93話【餓鬼の断壁と奈落への道行きその9】

 二人と合流し百人力となった戦力に、気を取り直したバルクスは、歯抜けの笑顔で先の方を指差して言った。


 アイナは傘を持つ手で鼻を摘むと、眉間にしわを寄せながら、高身長のバルクスを見下す様な眼で捨て台詞を吐いた。


『その前にあんた汗まみれで上裸だし、変な液体を身にまとってないで早く拭いなさい。はっきり言って臭いわよ?ほらっ、あんたも突っ立ってないで〝先へ〟行くわよ』


 未だに立ち尽くすマスク男に対しそう投げ掛けると、足場が悪い中で身軽に前へと歩み始めたアイナ。


 ノーメンはバルクスの近くへ壮大かつ華麗に着地する。


 しかし、誰も見ていない為か惜しみ無い拍手もなければ、誰も褒めるものはおらず、あまりのショックに少しだけ寂しそうに肩を落とした。


 一方のバルクスは血を拭い服を着ると、一切の無駄がない身のこなしで、次々と岩に飛び移るアイナを不器用な走りで追いかけた。


『ちょっ、ちょっと待ってくださいよ~アイナさ~ん!!』


(本当に、この仲間メンバーで大丈夫なのだろうか――――頼もしいやら不安やら気苦労が計り知れないな……)


 心配と先への展開が気にかかるノーメンを他所に、不安分子のバルクスと猪突猛進のアイナ率いる凸凹コンビは、〝晦冥の奈落入り口〝へと歩みを進めた。


 みなに半ば忘れられている、若干可哀想な男セリエは、横になりながら宙に浮き、大好きな果物を頬張っていた。


『いやー、さっきは焦った焦った。いきなり戦車大猿が砲撃してくるんだもんなぁ――――この前、アウトガーデンでニッシャに壊されたけど、残り4体の咄嗟とっさに使わなかったら致命傷って事も有ったかもね』


 セリエは翠色の髪を指で掻き上げると、首元には〝NOナンバー.0ゼロ〟と書かれている模様が、陽の光に照らされあらわになっていた。


『アイナちゃんと旦那を大猿と共に遠方へ飛ばして、魔方陣から遠ざける迄は完璧だったけど、周囲に兵隊が沢山居るのには驚いたな』


『しかし、まぁ――――小手先程の魔力で、level-Ⅲのを発射口で止め、暴発させたのには正直驚いたが、まだまだ実力は隠してるみたいだし、今後に期待だね~!!それじゃあ、死んだことになっているみたいだし傍観者って奴になりますかね』


 果物を摘みに寝転びながら、一行の頭上を何の不自由もなく、移動するセリエの快適さを知らないアイナ達だった。



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