第124話【歩む時と止まる時編その15】




『――――様っ――――セリエ様!?』


 セリエは各々の魔力値ステータスを凝視するあまり、ユリシャの声が聞こえていない。


 任務報告のため、ノーメンの娘〝レミリシャル〟と髭面醜男の〝テンザ〟は、セリエに夢中になっているユリシャを置いて、足早に先へ歩いていった。


 三人分の情報データを収集したセリエは、吐息がかかるほど接近して来たユリシャを、やんわりと回避すると思い出したように手を叩いた。


『……おーっ、そうかそうか!!晦冥の奈落に行ってるのか?とニッシャの相性は、最悪だからなぁ――――』


 視界が合ってない遠い目で吹き抜けの空をみるセリエだが、ぶっちゃけではないので、どうでもよかった。


 ユリシャは申し訳なさそうに翠と琥珀色の、通称〝セリエカラー〟のドレスを、左右にフリフリと揺らしながら、悩ましそうに言った。


『こんな事になるなら、私達が止めていれば良かったのですが……何せを一番慕っていたのは、彼ですから……』


 本体の尊厳とイメージのため、一応だが真剣な面持ちで聞いていたフリをしていたが、考えた所で分からないので昼食の事に集中していた。


『まぁ、向かったのはしょうがないな。あとは〝NO.0セリエ〟に任せるとして――――激務で疲れたろ?一緒に茶でも飲み行くか?』


 ユリシャの頭を優しく撫でるセリエは、腰に手を回しながら街の美味しい喫茶店へ、華麗にエスコートした。


(あぁっ……ぶっちゃけセリエ様の成分が枝分かれ末端の〝NO.4〟のセリエ様ですが、こうして二人でお茶を頂けるなんて――――生きててよかった……ですわ!!)




 これは、運命の悪戯なのか?。セリエとユリシャが話す、〝アイツ〟は何れにせよニッシャと大きく関わる事になるのは言うまでもない。



 ★




 時を同じくして、晦冥の奈落への入り口にも立っていないアイナ一行は、垂直に近い崖をひたすら下へ降りていた。


 恐怖のあまり体を前のめりにすれば落下。

 緊張の糸が切れ油断して足を滑らしたら滑落。

 踏み間違え落石を起こせば下へいる仲間へ直撃。


 そんな、死と生が隣り合わせ――――つまり紙一重の中、余裕の表情で100M程上方にいる仲間に怒鳴る女性がいた。


『ちょっといくら何でもあんた、遅すぎない??引き返すなら今の内よ!?』


 直角に近い崖に対し〝幼子の悪戯チャイルド・ミスチフ〟により、アイナは、無限に続く暗き穴を背にして、バルクスを叱咤しったしていた。



『アイナさん……ハァハァッ……そう言われても……ハァハァッ……もう三時間以上も……張り付いていますよ――――』


一々いちいち後で〝ハァハァッ〟うるさいわね!!あんたオトコでしょ?少しは、ノーメンを見習いなさいよ!!』


 バルクスは汗だくで視界が不明瞭ふめいりょうな中、自らの前をまるで天使の羽でも背中に有るかの様に、軽やかで美しく舞うノーメンを目撃した。


(あの無駄がない身のこなしと、この場所での息を切らさぬ立ち振舞い――――流石、精鋭部隊所属のノーメンさんだ!!)


 マスク越しに笑顔を見せるノーメンは、実力ココが違うんだよ――――


 と自らの胸を執拗に叩きながら、バルクスに〝愛〟のドラミングをして見せた。


 実は、セリエが事前に掛けていた風魔法により、ノーメンは足場の悪い岩場に接地する事はなく、足軽なため鼻歌混じりで余裕だった。


(うおぉぉぉぉお!!快適過ぎるぞおぉっ!!。ん……?そういえば、セリエの魔力切れたら俺って堕ちるよね?……)


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