第145話【残酷な運命と繋がる真実その2】

『ギャラリーが多いと燃えるねぇ!!……』と呟いた朱髪の女性は、クレスの脇差しを軸に後方宙返りをする。


 女性的でしなやかな体は、見る者の視線を独り占めするかの如く宙を舞う。

 重力に従いなびいた髪は、陽に照らされ美しい曲線を描く――――


 距離にして3M程の地点へ着地後、『お前、見たことない顔だけどさ。の魔力そっくりな匂いがすんぞ?』と鼻に指を差しながらクレスに問う。


 抜刀体勢を解き脇差しから手を離したクレスは、顎を指でなぞりながら挑発をする。


『ふむ……。未だに貴様の顔は思い出せんが、人間ヌシ如きが我に勝てるとでも?』


 その一言で女性は怒り心頭したのか、切れ長の眉毛が小刻みに動いている。


『私に喧嘩売れんのは、3人も居ないんだけどなぁ……』と言いながら、首や指の間接を鳴らす。


 通常ではありえない程の音――――骨が爆ぜる音色が辺りに響き渡る。


 これから起こる戦闘じゃれあいのためか、長い髪を後方で結いながら、『私は、あんたみたいな〝落武者野郎〟知らねぇけどな。丁度、武器相手の欲しかったんだ』と笑みを浮かべながら言った。


 結い終わり準備運動を一通り終えると、『いいから来いよ』と言いながら左足を一歩下げ、右手を前へ出しクレスに挑発をする朱髪の女性。


『ふむ、このすがたに馴染む良い機会だ。後悔するなよ?人の子よ……』


『さっきから、古臭い喋り方すんなよ。いつの時代だ――――』


 女性が話終えるよりも早く、拳を構えたクレスが後方を取る。

 ならば認識するのは不可能な程の、〝速さ〟と〝正確さ〟を天性の〝感覚センス〟でやってのける。


 先程立っていた場所から女性までの道標みちしるべの様に、辺りに燃え広がる歩みの跡。


 クレスはしたり顔で拳を振るうが、そこに女性の姿はなく真後ろから声が聞こえる――――


 耳に伝わるのはくうを切る音と、『フンっ……。所詮、人は人。容易く背中うしろを取れるな――――とでも思ったか?私に喧嘩売るなんて20。この、落武者野郎が!!』と言う、朱髪女性からの罵詈雑言ばりぞうごんの嵐だった。


 観衆が誰も女性の姿を捉える事はなく、かといって人為らざる者のクレスでさえ――――


 ただならぬ殺気けはいを感じた直後――――クレスは後方を振り返える反動で腰に掛けた脇差しを使い、神速の如き抜刀を披露した。


 するつもりで振るわれた刀は、抜刀と同時にから切っ先にかけて紅蓮ぐれんの炎で覆われている。

 有限から無限へと昇華しょうかした一太刀は、一度ひとたび触れ様ものならば、〝煉獄の劫火〟に未来永劫みらいえいごうほふられるだろう。


 だが……斬撃圏内ざんげきけんないには、女の肉塊もなければ焼死体等なく、目の前に立つのは姿


 息も切らさず平然と神速の抜刀さえ回避した朱髪の女性は、少しだけ焦げた髪を愛しそうに触りながら言った。


『うん。うん……。あんま言いたかないけどじゃ、私は斬れないかなぁ?――――』


 少しだけガッカリそうに肩を落とし、困り顔をしている女性に、クレスは〝面白い〟とさえ感じた。


 クレスは人間に少なからず興味が芽生え始め、『ほぉ……今のを避けるのか人間よ――――貴様。名を何と言う?』と問う。


 突然の問に『はぁ??』と口を開けながら呆れ顔をする女性。

 口の悪さは変わることなく喧嘩腰になりながら答えた。


『今、名前を聞くか普通!?私は魔法協会そこの魔法使いの〝ニッシャ〟だよ。その2本の癖毛アホげで覚えとけ!!』



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