呪われた子ニッシャのみが知るドーマの死の真実

精霊を託す者と託された者

第144話【残酷な運命と繋がる真実その1】


 ――――〝五年前のシレーネ市街地〟――――


 ここに降り立つは、先刻まで異形種であった一人の青年。


 街全体を囲う様に配置された建物と、見下ろされる様な気分が初のクレス。


 すれ違う人の波は、皆が然程変わらぬ体格の者ばかり。

 互いにいがみ合う事もなく、流れ出る〝血〟や縄張り〝争い〟もない。


『ここは何処だ?オリシンに名を授かり、人としての肉体を我は得た……』


 オリシンは、時の宝珠クロノス・スフィア〝序極-叛逆リベリオン〟発動間際まぎわ、クレスにある命令ひとことを告げていた。


『時間をどれだけ掛けてもよい。……を殺せ』――――と。


 自らを屈服くっぷくさせたオリシンの命令を、忠実に遂行すいこうしようとするクレス。


 だが、人の世界とやらの〝常識〟は、当然の如く持ち合わせていない。


 この場で本能のおもむくまま暴走し、大量虐殺ぎゃくさつをしようにも、オリシンの意思に反する事になる。


 クレスはひたいしわを寄せながら爪を噛み、周りに溶け込む様に人間らしく悩む。


『標的は名だけ聞いたが顔も知らぬ相手。其奴そやつと命令されたが、はてさてどうしたものか……』


 人混みので棒立ちをし、老若男女様々な人間がクレスを横切る――――しかし、1人を除いては……だが。


 地面を見つめながら思い悩んでいたクレスに対し、〝猪突猛進ちょとつもうしん〟の如く体当たりをしてきた朱髪の女性。


 静止しているクレスに向かって勢いよく衝突し、跳ね返される様に尻餅をく。


 朱き瞳でのクレスを睨む様に見上げると、口が悪いのか指を差しながら大声で吠える。


『っ!痛ってぇな……お前、こんな所で突っ立ってるんじゃねぇよ!!ぶっ殺すぞ!!』


 地面へと垂れ下がる髪は背中まで伸びており、長い脚を見るに身長は170後半といった所である。


(何だ、この人間は?我に敵意が有るようだな……許せ我があるじよ――――)


 それは、〝同族嫌悪〟に似た感情であり、はらわたが煮えたぎる様な、得体の知れない気味悪さを感じるクレス。


 生物としての本能が大音量で警告し、無意識に脇差しに手を掛けると、その女性を切り伏せる手前まで意識がいった。


 ――――されど抜刀は叶わず、脇差に掛けていた手を、意図も容易く右足で踏みつける女性。


 クレスが力を込めるも、まるで数tもの重量がのし掛かっているかの様に、一切微動だにせずにいる。


 女性は荒事に慣れているのか、首を鳴らしながら欠伸あくびをすると、殺気を込めた低い声で問う。


『随分、物騒なの持ってるじゃんか!?あんた見た所、ここのじゃないだろ?冒険者か?。それとも……別の〝何か〟か?』


 見えぬ〝圧力〟を掛けられようとも問いには答えず、尚も脇差に掛けられた手に一層力を込める。


(この女……見覚えがあるが標的か?――――嫌、名前から察するに標的は、で間違いない。無駄に殺すのは命令に背く事になるな)


 互いに睨み合いながらの沈黙が続き、女性の手の平が力強い拳に変化していく――――


 辺りは二人に見向きもせず、誰もかれも無関心だった。


 だが、通りすがりの男が何気無く横を見ると、な女と、白昼堂々と刀を持つ男の姿が眼に入る。


 『ハッ』と驚くと共に、事態にいち早く気付いた男が、危険を知らせるように大声で叫んだ。


『大変だ~!!大変だ~!!、あの女の喧嘩が始まったぞー!!』


 男の叫びにより、ただならぬ異変に気づいた民衆は、二人を中心に蜘蛛の子を散らす様に逃げていく。








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