第147話【残酷な運命と繋がる真実その3】

 ニッシャが気だるそうに言った名前を聞き、断片的な記憶を頼りにようやく思い出したクレス。

『――――ニッシャか。容姿は多少異なるが、使とまた相間あいま見えるとは嬉しく思うぞ……』と、自らも意図しない笑みを浮かべる。


 焔獄兜武者ヘルクレスであった時と比べ、オリシンの魔法により人型となった姿での初の〝笑み〟は、言い表せない程の快感が溢れる。


 眼前で慣れない笑みを不気味にするクレスを、ニッシャは軽蔑けいべつする視線を送る。


 現時点で攻撃の間合いにいながらも、互いに引かずされど互いを態度を取っている。


 ニッシャはクレスに指を差し『なに笑ってんだお前。か弱い私に怖気づいたとか言わないよな?』と、半ギレ気味に言った。


 観衆は見せ物の様に対峙する二人に釘付けとなっている。

 それもその筈……と呼ばれるニッシャに喧嘩を売る人間など、この都にはいない上に、恐ろしく強いのだ。


 五年前のニッシャの性格は相変わらずだが、より鋭い目つきと朱髪が背中まで伸びており、最大の違いはと言うこと――――。


 それこそ、にらまれれば頭突きをお見舞いし、気に食わなければ器物損壊の余罪多数有。

 余所者が少しでも歯向かうものなら、〝ニッシャに挑んだ命知らずの証〟とのオマケ付きだ。


 そんな彼女ニッシャだからこそ周辺住民や協会人さえ、直接声を掛ける者は少ない。

 だが実力は折り紙付きであるが故に彼女も又、類いまれない才能の持ち主であり、周囲に畏怖いふされるが誠のと言う奴だった。


 しかしをきっかけに、彼女に寄り添う人物が現れた……。

 それが、元部隊長〝酒煙の炎〟ドーマ事、ニッシャに〝炎の精霊〟を託した人物だ。


 ドーマは身寄りのないニッシャを陰ながら支え、共に闘う同士として良き理解者となる。


 自らにも歳が近い子どもがいたため本当の娘の様に、時に厳しく教え、溢れんばかりの愛情を忘れずに一人前の魔法使いへと育てた。


 後にドーマは――――だが、それは少し先の話。


 ドーマの死後で五年の月日が流れ、孤独と劣等感により自暴自棄になっていた時期に、転機となる〝愛天使まなてんしミフィレン〟と出会い、見違えるほど女性らしく変わっていった。


 しかし、この時間軸にクレスが現れたのは〝偶然〟でもなければ、〝奇跡〟等という不確定要素では断じてない。


 この世の歯車は全て決まった動作しかせず、〝運命〟と言われれば片付けられる物も多々ある。


 しかし、それが人の手によって〝〟どうか?―――――


〝過去〟〝現在〟〝未来〟と、1秒先へも後にも行けないこの世界で、それが可能なる唯一の存在――――それが、クレスを過去へ導いた〝オリシン〟。


 彼女は6つに散らばった精霊の内に困難とされる〝時の精霊〟を使役している。


 残りの5体の精霊集めを秘密裏に何百年も行っている彼女だが、事実――――まだ1体も集まっていない。


 大精霊は元々1つの存在であり、身を滅ぼしながらもこの世を創造した主。

 分裂した破片とされる6つの精霊――――〝炎〟、〝消〟、〝荒〟、〝水〟、〝時〟、〝無〟は何れも人智を越えた力を持つ。


 特異体質である宿主のを糧に、幾代、何百年の歳月を掛けて、個としての〝力〟を取り戻しつつある精霊達。


 全ての欠片ピースが揃い、再び1つとなるピークは、近い内に来るとオリシンは確信している――――


 時はニッシャとクレスの対峙に戻り、難しく考える事を嫌うニッシャは、ずっとに思ってた事を口にする。

 

『さっきから訳わかんねぇ事言うのは勝手だけどさ。私、使?まだ人違いってんなら許してやるけど……?』


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る