第148話【残酷な運命と繋がる真実その4】


 ニッシャは頬を掻きむしりながら、そうクレスに説いた。


『今、人違いと言うなら許してやる』――――と。


 クレスは確信していた『人違い』等ありえない――――と。


 初見からクレスはニッシャに対して、疑問や不自然な違和感を思う事が多々あった。

 容姿こそ多少変わるがこの時代から五年後、魔法協会にて死闘を繰り広げた人物に瓜二つな事。


 初めてニッシャと対峙した際、退しりぞいて逃げ惑いそうになったあの絶望感に似た、圧倒的威圧感がない事。


 しかし、それ以上に大きな違いがあるのは、クレスの瞳を通して分かる。


 それは日常生活はおろか、この世に命を授かった者が必ず与えられる祝福。

 そう――――だった。


 その疑問の答えは出ず、何故かは分からない。

 何せ魔力がない生物等、酸素のない所で生活をする様な物だったからだ。


 クレスはニッシャの朱色の瞳と目が合うが、その奥に宿る命の光は燦然さんぜんと輝いている。


(嘘を付いているようには見えないな。魔力機関マナエンジンを見ても、はおろか、他の反応さえ見当たらない――――人違いか?)


 口を閉ざすクレスに痺れを切らしたニッシャは『炎魔法の使い手何て、この街には沢山いる……あんたが誰と間違えてるか知らねぇけど、私は会ったこともない奴に斬られるのはご免だね』と言いながら、右手で胴体を袈裟斬けさぎりの要領で撫でていく。


〝無限に沸き立つ炎〟を宿したクレスに対し、ニッシャの余裕の笑みはどこから来るのか?―――――未だ分からないクレスだが、その自信の元凶を垣間見る事となる。


 戦闘態勢に入ったニッシャは、着ていた上着を地面に向かって脱ぎ捨てると、女性らしい華奢な体と相反する胸元があらわになる。


 左右対称で均等が取れた両手足と筋肉質な体は、彫刻の如き芸術作品とも呼べるだろう。


 ニッシャは立ち尽くすクレスを前に、手首を使って『シッシッ!!』と観衆達に円を広げる様に呼び掛けた。


『おい、お前等っ!!危ねぇからもっと広がっとけよ?巻き込まれても知らねぇからなぁ!?』と恐喝4割、脅迫3割、恫喝2割とほんの少しの優しさ1割を元に不適な笑みを見せるニッシャ。


 クレスは脇差しから手を離し、何やら動き回っているニッシャを逃さぬ様にジッと見つめている。


 ニッシャ達を中心に大勢の人だかりが出来たが、最前列で様子を見る者さえ直線にして100M程離れている。


 準備運動と舞台は万全であり、後方で結った髪の毛を再び整えると『まぁ、でも……観客ギャラリーがこれだけいるんだ。少しだけ付き合ってくれよ?』と、クレスに妖しく微笑んだ。

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