第149話【残酷な運命と繋がる真実その5】

 笑ったのを皮切りに、クレスの視界から忽然こつぜんと消えたニッシャ。


 観衆はあまりの早業に驚きおののくが、されど対峙したクレスだけは冷静であった。


 静かに抜刀体勢へと入ると、無駄な雑音は筋肉の膨張で耳を塞ぐ事により対応。

 唯一頼れる視界の情報さえ、遮断するように瞳を閉じる。


 信じうる物は、生まれながらに与えられた一角いっとうのみ――――


 先ほどは動揺のせいか、刃速が失速し避けられた。


 今のクレスは全方位攻撃等容易であるが、その分威力は衰え刃速は遅くなる。


 だが、一点集中ならば話は別――――来ると分かれば切り伏すなど容易い。

 次の一太刀は集中による加算が+され速く振れる。


(姿が消えたとて攻撃時には、姿。奴は、こちらの虚を突こうとするがそれは甘い考えだ)


 観衆はおろかクレスさえ反応出来なかった頭上に彼女はいた。


『――――とか何とか思ってる辺りで、私には勝てないよ?』


 ニッシャは周辺への被害を考慮し、50M程上空へ逃げていた。

 足場がない空中は、彼女にとって不利ではなくむしろ


 予知出来る斬撃の範囲を絞れるし、そして的は動かないからだ。


 しかし、先の先を行くクレスは読み合いの更に上をいっている。

 準備が整ったクレスは、足に力を込めると天上に向かい跳躍ちょうやくをした。


 それはニッシャがクレスを仕留めようとした位置まで秒も経たず、握られた脇差の抜刀は神速の2乗の速さを誇る。


(人間の特性上、か弱き同族は守る物。よって頭上に女はいる……どうやら当たりのようだな)


 悠然と地上を見るニッシャの瞳に映るのは、瞳を閉じながら物凄い速さで上空へと昇るクレスの姿。


『ゲッ……!?ここまで来るなんてバケモ――――』


 クレスはニッシャの予想を裏切ると、互いの間合いに入り、雌雄決するその時――――


 クレスの刃は思い虚しくも、ニッシャの頬を軽く撫でるだけで終わる。

 負けじと神速の2乗を越える刀の腹に、右拳を入れるニッシャ――――だが折れる事はない。

 刹那的な攻防が幕を閉じ、降り注ぐ流星の様に地上へと着地する二人。


 ニッシャは多少疲れた様子を見せ、尻餅を付いて笑っている。


 クレスは愛刀にひび割れ等無い事を確認後、軽く素振りをして納刀。

『魔力がない人間がこんな芸当は不可能ではないか?貴様、何者だ?』と、興味を持ったのか息を切らすニッシャに問う。


 それを聞いたニッシャは、彼女らしくこう返答した。


『あの刀捌きを見るにあんたも同類だろ?……つか、何者だぁ?――――こっちが聞きてぇよバーカ』





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