第150話【生まれた理由と存在意義その1】

 ※区切る所間違えましたので、追加文章を入れました。 


 ☆


 天からの祝福とされる魔力が無い事等、では決してあり得ない。


 彼女が何故、一度ならずクレスの脇差しから放たれた神速の一撃をかわしたのか?――――


 通常ならば真っ二つに両断され、運が良くとも追撃の劫火に炙られる。


 だが、当の彼女は抜刀の瞬間――――否、極僅かな指の動きにさえ反応したのだ。


 動をするには必ず静を介する様に、またその逆もある。


 彼女は常人ではありえない反応速度と運動神経を兼ねていた。


 それは訓練で培われた物でもなければ、生まれもった天賦の才等という大それた物ではない。


 もっと……単純かつ非人道的なお話。


 精霊は通常、宿主を転々とする際に、命の灯火が消える瞬間のエネルギーを自らの糧とする。


 そうして永続的に語り継がれる事により、人々に恩恵をもたらす〝神聖な存在〟となった。


 だが、時代が進むと頭の良い誰かが言った――――『器は1つでいい。受け継ぐだけ無駄だ』と。


 今まで受け継がれる度に精霊の力は強力になれど、人間は老いて朽ちるのが宿命。


 それは、強くてニューゲームではない――――最初から始めるに程近かった。


 ならば、人間の全盛期とされる25~29歳の段階で成長を止め、永遠の若さを与えれば制御出来るのではないか?


 そうして試行錯誤する事、数十年の月日が流れ、幾多の廃棄物が積み重なった上に、検体番号248番が出来た。


 最初こそ制御不能で失敗作と呼ばれた彼女だったが、身体能力が想定よりも桁外れに高く、どうにか手中に納める事は出来ないかと上層部は頭を悩ませた。


 248番は炎の精霊を永続的に捕獲するためのいわば鳥篭とりかごであり、人工的に造られた生命体であった 。


 通常の配合では到底ありえない朱色の髪と同色の瞳は、遠目からでも監視官には識別出来る様に工夫されている。


 その色は6体の中で、どの精霊の適正個体か知らせるためのいわばマーク代わりだ。


 それぞれの個別色は下記の通り――――


〝炎-朱〟〝荒-翡翠と琥珀〟〝水-藍〟〝無-透明〟〝時-純白〟


 唯一〝消〟のみが代々継承されているため、製造許可を得られなかった。


 最初こそ非人道的だと揶揄やゆされたが、『人類を未来永劫保つため』と言う、大義名分を盾に極秘裏に研究は進められた。


〝無&時&水〟に関しては 伝記や噂でしかなかった為、製造はされども一定の期間が経てばとされる。


 生物本来の感情による精霊の暴走を恐れ、初期段階では制御リミットを掛ける事を義務化。


 だが、そうして造られた個体が、想定される精霊エネルギーに耐えられずに爆散した。


 残る二体の〝炎&荒〟――――最終宿主とされる248番と760番は、極めて成績が良い個体だった。


 だが、二体共に一部が欠如していたために、扱いが困難を極めていた。


 248番は気性が荒く暴力的であり、一般的な知性に欠けている。

 760番は、個人主義が強く怠慢が過ぎるため、1ヶ所に留まる事なく自由奔放であった。


 もし……世界を滅ぼせる力を持った生命体が、で破壊活動をしたらどうか?


 製造した研究者達は、その事について幾年の歳月も頭を悩ませた。

〝制御不可能〟であり〝危険因子〟を産み出してしまった――――と。


 しかし、ある時誰かが口にした『常人で抑えるのが無理ならば、現段階の使役者に鍛練をさせればどうか?』


 この一言で協会が把握出来ている現使役者二名に、直接頼み込む事になった。

 使役者自らが に炎の精霊なら248番に、荒の精霊なら760番に継承をする様に言伝をした。


 だが、〝現〟荒の使役者とは未だに連絡が取れず、現在27歳となった760番は、〝消〟の使役者とコンビを組まされ任務を遂行している。


〝元〟炎の使役者は最初こそ渋っていたが、『俺にも同じ位の娘がいる。まぁどうにかなるか!!』と、豪快に煙草を吹かしていたと報告されている。


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