第96話【VS〝熊〟過去への決着編その3】

 そう言って余裕の笑みを浮かべながら、小刻みにステップを繰り返し、くまの出方を伺う事にした。


 ニッシャの言葉に激昂げきこうし挑発に乗った熊は、辺り一帯の木々に突進。


 無作為に薙ぎ倒すと、ニッシャに向かって重量級の大木が倒れていく。


 ――――が、ただ立っているだけで幾本もの大木は瞬間的に炭となり、何の意味も為さない〝ガラクタ〟と成り果てる。


『想像上の仮想の森だからさぁ……ぶっ壊すのは別に構わないけど――――さすがにちとヤりすぎじゃね?』


 そう言い放った瞬間〝焼け石に水〟の如く、次々と投擲とうてきされる大木達は、投げられては、消えを繰り返すと同時に火力を増す手助けをしているようにも見えた。


『しかし、まぁ――――着なれないドレスで闘うって言うのも中々乙なもんだねぇ……』


 暗い森を照らすように夜空から差す月の光を浴びて、散り行く木灰もっかいが、まるで冬景色の一部〝降雪〟の様。



 眼前に優しく舞うのを不思議と綺麗だと感心するニッシャを尻目に、凶暴な森の獣は攻めの好機チャンスうかがっていた。


『このまま、そんな子ども騙しだと、拉致が明かないからさ……の一撃で決めるからな――――炎舞一の段〝一火次炎ひかじえん〟!!次いで二の段灼火瞬炎しゃっかしゅんえん!!』


 熊へと一直線に造り出された炎の道が、辺りを照らす事により、まるで真昼の様に視界が良くなる。


 明るみになった目標くまの位置まで瞬時に間を詰め、同時にニッシャの拳が熊の顔面を捉える。


 あらゆる音を置き去りにし、その拳から放たれる数百の連撃が、に見える程の一瞬で決着の時は突然やって来た――――かに思えた。


 炎舞えんぶを受けた燃ゆる肉体は、よろめきながらも倒れる事はせず、尚もニッシャの前に立ちはだかろうとしていた。


『これは修行のせいかな――――目で見えずとも息遣いで分かる……〝奴の思惑〟と〟次への一手〟って奴がさ。この勝負、追い詰められたのは熊か、はたまた――――さぁ、存分に狩合おうか!!』


 地に背を付けぬのを見て、対等であると認めたニッシャの雄叫びは、大気を震わせ己自信と熊の闘争本能を鼓舞していた。


 それに焚き付けられた熊は、焼け焦げる肉体を物ともせずに、助走を付けながら再び突進をすると、玉砕覚悟で正面から最後の攻撃を仕掛ける。


『キタキタキターッ!!正真正銘、小細工なしのといこうか!!』


 そう言って体から溢れ出る魔力を断つと、両の拳から炎は消える。


 逆立ちながら燃え盛っていた朱髪は、容赦なく降り注ぐ雨に打たれると、再び地に向かってゆく。


 焼けた木々が天然の灯りの様に人と獣、種族が違う両者を包み込む様に辺りを照らす。



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