第34話【VS〝万足〟現れし闇 暴食編その4】


 セリエの腕を力なく掴むと、風魔法が突然消失し宙へ浮かんでいた体は地面へ着地したタイミングで、反対に翠色の頭を鷲掴みにし、ようやく立ち上がるノーメン。


 最早、立っているのが奇跡と呼べる状態であり、満身創痍な体の魔力は、いまだ安定せず周囲の魔力を全て消してしまいそうだった。


 喉は焼け、片耳は崩れ、喋ることも、ままならないノーメンだが、協会内でもマスクと大柄な体のせいもあって周囲から恐れられているが、そんな彼の理解者であり、現存する唯一の友であるセリエに思いを告げる。


「迷惑を掛けたが、お前に借りは……作らないつもりだ。ここは任せろ……相棒――――」


 セリエの周囲には、鳥篭状とりかごじょう無意味ミーニングレスネスが張り巡らされており、対象の魔力マナを吸収し己の糧とする技で事前に毒を無力化していたのだ。


 今、1人の男が死ぬ決意をしたのを指をくわえて黙って見ているはずはない。


 吸収される特性を活かしlevel1-風災散壊ふうさいさんかいを放つと、流動的な風が周囲を漂い始める。


 毒を霧散むさんさせるウィンド羽衣ヴェールがノーメンを包み込む。

(身体中の毒が退いていくのが、分かる……)


 だが状態は依然として変わらず、歩みを進めるごとに崩れ行く肉体を力ずくで動かし万足センチピード対峙たいじする


 これまで、獲物を横取りしてきた掃除屋ザ・クリーナーは、今だ立ち続ける初めての強者えものに身震いし、ゆっくりと奇怪に足を鳴らしながら正面に立つ。


 今まで隠れて生きてきた万足センチピードにとって最大の大物であり、最高の獲物しょくじを前に肉弾戦を挑み己の手で殺す事を決める。


 光り届かぬ僻地へきちで不気味な静けさと男達の熱意が辺りに充満し、見えぬ戦いが繰り広げられる。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る