第157話【生まれた理由と存在意義その8】
『『『ごちそう様でした!!』』』
本当の家族の様な楽しい時間は、やがて終わりを告げ、1人台所へと立つドーマ。
二人が寝静まった所で、黙々と食器洗いをするドーマは、睡魔で
それは……自分が生まれ育ち愛した土地を紹介し、成長した二人にどことも変わらない平凡な家庭を作り、幸せな日々を過ごしてほしい。
――――1人の男……子を持つ親として見過ごせない。
不器用な男ドーマが想像するのは、誰もが笑ってしまうであろう……そんな些細な願いだった。
次の日の早朝――――
結局、一睡も出来なかったドーマは、窓から〝外〟を眺めるセリエと、散乱した家具の〝上〟で、雑に寝ているニッシャに声を掛けた。
色々と考えすぎたせいで、目の下に色濃いクマを作りながらも『これから二人が故郷と呼ぶであろう、〝魔法に溢れた街シレーネ〟を見学しよう!!』と、声高らかに叫ぶ。
普段、寝ている
その、目覚めが悪い声で起きたニッシャは『ん~、腹減ったなぁ~』と残骸の上で寝ぼけ眼を擦りながら体を伸ばす。
大口を開けながら
一方、ドーマの問いに〝顔色〟〝声色〟を一切変えないセリエは『丁度、退屈してたからいいよ。行こうか……』と、
そんな張りのない返事にも、全力で答えるドーマは『よ~しっ!!、そうと決まれば善は急げだ!!二人とも、行くぞ!!』と言いながら、床に置かれた何かを手に持つ。
セリエが窓から見る光景は、日の出と共に忙しなく行動する人々と、反射で室内が映し出されており、髭面の男が笑顔で何かを持っていた。
それは――――徹夜をして作った〝只今、子ども達が街を見学中!!〟と色鮮やかに書かれた大きな看板を得意気に見せびらかすが、正直誰も見ていなかった。
☆
シレーネには、魔法使いの登竜門とされる〝魔法協会〟を含め、有り余る豊かな資源と数々の名所や建造物が存在する大都市である。
花や木々といった植物関係、犬や小鳥といった動物達にも優しい環境に加えて、争いや大きな事件もなく豊かな街――――
何処を取っても全てにおいて非の打ち所がなく、俗に言う〝平和の象徴〟と呼べる所だった。
しかし……ドーマ程この街の人間は、ニッシャやセリエに対して温かくは迎えなかった。
衣服を買うため商店街へ出歩けば、試験体に特徴的な頭髪や首元の番号のせいか、後ろ指を差され好奇な視線に晒されたりもした。
――――人や命有るものは必ず生まれ先を選べない。
悠然と空を自由に飛ぶ鳥でさえ――――
朝露や陽を浴びる花でさえ――――
人を喰らう事が本能の危険種さえ――――
そして――――無論、こうして平然と〝自由〟と述べる人間でさえ、決められた分岐が存在する
自分は〝大丈夫〟だと、安全地帯で眺める者でさえ逆もありえる。
しかし……平和を謳歌する者程、他に感謝と礼節を忘れてはいけない。
溢れるばかりの笑顔も、心を満たす思いでさえ、他でもない誰かのお陰だから。
――――そんな事等、お構いなしに周囲の大人達は、陰口や有りもしない噂話を本人に聞こえる声量で言う。
しかし、1番達が悪いのは、それを当たり前と勘違いする子どもである。
凶器となり得る石を投げたり、酷い時には暴力を振るわれたりもした。
それでも、セリエやニッシャは反撃をする事はなかった。
――――それはどうしてか?。
答えは至極単純――――
普通の人間程、簡単に命を奪える物はないからだ。
10年もの間 、ニッシャとセリエを一人の人間として扱ったドーマは、それこそ人知れぬ苦労を沢山してきた。
ドーマは常日頃から『望まれない命なんてない。いつかの誰かのために存在するだけだ』と、言い聞かせていた。
二人はそれを〝忠実〟に自分の色を持って〝反抗的〟に成長した。
共に周りが羨む程、笑い合ったりもした――――
共に数々の壁を乗り越えたりもした――――
時に、ニッシャから罵倒されて、ドーマが泣いたりもした――――
〝そうした日々の積み重なりで、最初の出会いから、およそ10年の時が流れた頃〟
目を閉じればドーマ自身、過ごした日々がまるで昨日の事の様に、鮮明な映像を見ている感覚に陥っていた。
成人となり、老いが止まる全盛期に程近いセリエとニッシャは、個々で住居を構えていた。
22歳となったセリエは〝消の使役者〟である、ノーメンと共に二人組での特殊任務を行っている。
引き渡し当日に『無口な男同士でお似合いだな』と、別れ際に冗談交じりで言ったが、あれ以来笑わなかった。
ニッシャは才能を昇華させ18歳の時には、早くも師である〝ドーマ〟と同格の、部隊長の座を授かった。
相変わらず魔力はないが、身体能力が幼き頃より桁外れに上昇しており、協会では異例の
それからさらに2年の経験を得て、出会い初めから10年後の20歳には、ドーマが率いる〝
そして、今日が初日の部隊挨拶となるが……当の本人であるニッシャは寝坊をしていた。
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