　――――〝協会内部-魔方陣扉前〟――――

　彼が魔方陣に入り、一体どれくらいの時間が経ったのだろうか？――――

　急ぐ気持ちもさることながら、不安と緊張感で呼吸を忘れそうになるバルクスは、己の性格上居ても立ってもいられなかった。

『俺……次、行きますよ。このまま指を咥えて見てるなんて出来ません。もし、セリエさんに何かあったらどうするんですか！？』

　集中し瞑想しているアイナは、眼を開く事なく怖（お）じ気（け）づくバルクスを一喝（いっかつ）した。

『バルクス、悪いけどその意見には賛成出来ないわ！！私情だけでは人は救えないし、何（いず）れその身を滅ぼす事を知りなさい』

　腕を組み、微動だにしないノーメンもアイナと同じく、仲間であるセリエを〝信じて〟いたのだ――――

　故に、待っている事が信頼と言う行為の現れなのだ。

　心配し慌てふためくバルクスを他所（よそ）に、冷静沈着なアイナが徐（おもむろ）に秒針を数え始めた。

『177……178……179……180――――時間ピッタリね。私達も、そろそろ行きましょうか。バルクス、貴方は最後に来なさい。はぐれないように、遅れをとるんじゃないわよ？』

　老婆（ﾘﾒｲｼｬﾝ）と老体（ｼﾊﾞ）が見守る中アイナが先に入り、続いてノーメンが魔方陣へと吸い込まれて行く。

　それを震える体を抑えながら見ていたバルクスだが、あと一歩の勇気が出ずに立ち止まってしまった。

　異変に気付いたリメイシャンは、うつむき震えているバルクスに対し、優しく声を掛けた。

『のぉ、バルクス。貴方は賢くて強い子だから解るだろうけど、あの子（アイナ）は一度決めたことはやり遂げる真っ直ぐな子だよ。それが間違った方向へ働いたとしても、周りの者がそれを正せばいい。だから、彼女のためにも――――己の信念のためにも、ここで漢（オトコ）を見せなさい』

　唇を強く噛み締め、自らの拳で胸を殴打すると辺りには鈍い音が響き、途端に気合いの入ったバルクスは、迷いのない覚悟の顔を見せる。

『解りました師匠……俺、行きます。最後まで御教示（ごきょうじ）ありがとうございました！！』

　鍛え上げられた大木のような体を見上げ、シワだらけの顔で優しく微笑みながら言った。

『それでこそ、私が認めた愛弟子だよ。体に気を付けて行ってらっしゃい』

　師匠（ﾘﾒｲｼｬﾝ）は弟子（ﾊﾞﾙｸｽ）の背中を軽く押すと、勇気付けられた漢（オトコ）バルクスは己の足で歩みはじめた。

　真っ直ぐ進むと、逞（たくま）しい背中を見せながら、魔方陣へと吸い込まれて行く。

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