第41話【VS〝バルクス〟子育て日記二日目 組み手編その4】


 先程のおよそ倍以上に及ぶ5分間の猛攻が終わると、何故か煙が辺りに充満し、息苦しさと疲れによりバルクスは膝に手をつき、大量の汗を流しながら足元を見ると、いつの間にか吸殻が13本程、床へ転がっているのに気づく。


 呆気に取られながら顔を上げると【身長】、【体格】では大いに勝るはずの自分が、目の前に立ちはだかり下に見ていた女性よりも、小さく感じる情けなさと悔しさで言い訳を述べる。


「俺の攻撃が一切効いてないぞ、これは不正じゃないのか!?魔力を使わねば耐えられるはずが……」


 周囲を見回しながら大声で叫ぶが群衆は誰も聞いてくれず、中立の審判を見るが首を横に振るばかりか、ただ目の前に立つ美しい女性に目が釘付けになっていた。


「あー悪い悪い、帯の結び方甘くてほどけちまったわ。ところであんたの全力は、300秒で終わりでいいんだよね?」


 ニッシャはほどけた帯を固く結び直し、愛想笑いを浮かべながらバルクスへと一歩ずつ丁寧に近づいていく。


 あまりにも無邪気で平然と話しかけられたため、それは得たいの知れない恐怖心なのか、本能が警告しているのか真実は定かではないが、「ぐっ……」と唇を噛み締めながら、一歩後ろへ下がってしまう。


 アイナの眼前には、一歩ずつ前進するニッシャと一歩ずつ後退するバルクスがおり、それに合わせて周囲の弟子達も移動をする奇妙な光景が広がり、ニッシャは3歩程離れた場所で立ち止まると、指を3本立て鋭い眼光で睨み付ける様に問いかける。


「3つあんたに言いたいことあんだけど良いかな?」


 その一言で道場内は静まり返り、バルクスの上半身は尋常ならざる汗で光の粒が出来ており、胴着を伝い足元の床一面を濡らしてゆく。


「1つ、あんたの肉体は鋼じゃないし、もっと頑丈な男ノーメンなら知り合いに1人いるぞ?」


 女性らしい決め細やかな指を、1本ずつ折ってゆき、絵本でも読んでいるかの様に淡々と話を進める。


「2つ、蚊でも刺した様な感覚とか言ってたけど、?」


 大量に摂取したにも関わらず、吸い足りないのか煙草を一本口に咥えると、イタズラがバレた子どもの様な男に向かい、煙を吹き付けると同時に、3本目の指が折られる。


「最後に80発しか見えてない、おめでた節穴筋肉馬鹿に一言、80発じゃねぇ……400発だよ。バーカ」


 そう言うと瞬時に距離を詰め、利き手である右の拳に力と腰を込めて大きく振りかぶる――――


「ご自慢の筋肉が守ってくれるんだろ?ちゃんと顎引いて歯ァ 食いしばれよな?大丈夫――――今度はしか打たないからさ……」


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