第24話【子育て日記2日目】(精神の滝編その3)

 ――――〝精神の滝〟――――


 屋敷とは到底思えない内装に最初は困惑したが、慣れてしまえばさほど悪くないことに気づいたニッシャ。

 細部まで緻密ちみつに計算され快適性かいてきせい利便性りべんせいに優れていることが一目で分かる。


 一秒間に数tもの癒しの水が循環じゅんかんしながら流れ出ている。

 水魔法で作られている微細な粒子は、一種のアロマテラピーの様に部屋中に漂う。

 本人達の気づかない所で、病んだ気持ちや小さな傷を修復&改善させ気分を穏やかにさせていた。


 すると――――耳を澄ませば、溢れでる激流が水上みなかみと衝突する音や、明るい日射しが部屋中を照らしながら、まるで小さな鳥たちによる求愛のオーケストラ。


 若さがありそれでいて可愛らしい声が聞こえてくるではありませんか……


「ラッシーちゃん泳げるの?凄いね!!」錦糸卵ミフィレンは、15M程上空の天窓てんまどから差す光のベールに目を細くしながら流れに身を任せ、呑気に「ぷかぷか」と漂流物ひょうりゅうぶつの様に脱力しながらそう言った。

 自由奔放じゆうほんぽうなミフィレン達の10数M程離れた場所でも、絵になるような光景シーンが目の前にはあった。



「くたばりやがれえええぇぇぇぇ!!」そう言ってビーチボールに少量の火をまとわせさながら【火球かきゅうを15M先まで投擲とうてきする朱毛が特徴なニッシャの顔は、何かに夢中になりたのしそうにはしゃぐ子どもの笑顔そのものだった。


「あらあら……相変わらず品がないわね」呆れたようにそう呟くと、燃え盛る球体を右人差し指だけで止めると、回転を保ったままアイナの指にとどまる。

 左手全体を使い、優しくでるように力を加えると勢いは増していき、もはや先ほどまで火球と呼んでいた代物ではなくなっていた。

 それは、超高回転の絶望と苦痛の業ニッシャ絶対に許すまじとなり、足場がなく水の抵抗を直に受ける身ながら渾身の殺意を込めて投げ放つ。


 滝側にいるニッシャは、それを両の手で受け止めると足に力が入らないため勢いを殺しながらも後退してしまう。


「つうか、想像していた遊びの域を越えてんぞこれええぇぇぇ!!」

 高熱の球の周りは蒸発し立ち上る水蒸気とニッシャの悲痛にも似た声は、誰の耳にも目にも入らず徐々に滝へと近づいていく。


 このままでは、と思い、咄嗟に皿洗いの事を思い出したニッシャは球の中心へと力を送り込む。


 ――――全体に力を込めるのではなく、中心に力を集中させ拡散させるのよ

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る