第182話【勝利の美酒と敗北の苦汁その5】


 壁に大きな穴が空いた店内には、ニッシャが引き起こした騒ぎのせいか、野次馬達が覗き込む。


 広場を覆うほどの歳や性別が、様々な老若男女の群れ。


『何だ何だ?壁に馬鹿デカイ穴が空いてるぞ!?店内が丸見えだ!!』


『どうせあのニッシャやったんだろ?気にしていたらキリがないぜ』


『全く飼い慣らせない何て物騒ね……野蛮な魔法使いはこれだから困っちゃうわ!!』


 冷ややかにひりつく様な視線と、各々が発する悪意を帯びた本音は、時として人の残虐性を垣間見る。


 罵詈雑言の的は、魔法協会において危険視されているニッシャ。


 ――――及び、顔が知られているセリエ達4人だ。


 平均的で平凡な魔力の一般人からしてみれば、街を自由に歩く〝協会直属の部隊〟等、もはや殺戮兵器と言っても過言ではない。


 更に、人物達もいる。


 今現在、6つに別たれた大精霊の一部をその身に宿すドーマやノーメン、に役職や家庭を持たせたのは、


 2人の役目は、人としての寿命が尽きる前に後任を育て上げ、実験体を主とした〝安寧と繁栄の永久機関〟を作る事。


 大精霊―――― 生きとし生けるもの全ての原点にして頂点。


 天上天下あらゆる事象や災害は、創造主である大精霊が原因であり、全てのことわりも、その余韻である。


 人波に左右へと睨みを効かせながら吠え、剥き出した八重歯で威嚇するニッシャ。


 『ほらほら退け退けっ!!私の道は私が踏むためにあるんだ!邪魔するなら 』


 誰もが近付かずに道を開け、されども自らに危害が及ばぬと、知っているのせいか止まぬ言葉の暴力。


 どんなに精神的に責め立てられても、〝醜い心の人間〟をニッシャは相手にしせず。


 あくまでも〝自由奔放〟〝唯我独尊〟を貫く姿勢は崩さない。


 その後を汗だくで追うふくよかな肉体のテンザは、〝早口〟〝小走り〟〝内股開き〟で多くの人間に言い放った。


『皆様の貴重な時間に、お騒がせして申し訳ありませんねぇ……。実はですね――――』


 見た目はどこぞのマスコットキャラクターのような小太り体型と、柔かい物腰の優しい口調で状況を的確に説明。


 満面の笑顔で話掛けるや否や、1人当たりに物の数分足らずで、野次馬の群れを霧散させる見事な話術を披露したテンザ。


『あ~っ、疲れたなぁ。めんどくさい事になると、いつも後処理をするの儂ばっか……』


 愚痴の連射を溢しながら夜茶屋酔よっちゃや~よに戻り、得意の〝壁魔法〟で空いた穴の応急措置を行う。


 やっと過ぎ去った災害の様な時間に、ギケは深い深いため息を吐く。


『はぁ……。お疲れさんテンザ。お前も大変だろうが、


 しかし、安堵するのも束の間、ギケの視界に舞い降りる白紙。


『んだよっこれは!?』と、顔から引き剥がすと、中身は女性らしい文字が書かれた、レミリシャルの置き手紙だった。


〝お姉様が帰るなら私も帰ります。大変、お疲れ様でした。本日分の給料は接待代も+してください〟――――byレミリシャル


 一通りの文字を睨みながらギケは、手紙を自慢の糸で切り裂くと


『か・え・る・だぁ?。本当に一輪うちぶたい!?』


 長髪頭を両の手で掻きむしり、甲高い舌打ちを鳴らす。


 『チッ……ったくよぉ。あ~イライラするぜっ!!』


 普段は冷静の仮面を付けているギケでも、酒のせいか荒ぶっていた。


『まぁまぁギケ殿、いつもの光景ではないか?……ここは我等だけで楽しむべきでは?』


 現在進行形で〝肥満〟と〝拒食〟の不健康な2人。


 いつでも死地一直線の棺桶仲間だと、然り気無く意気投合している。


 そこへセリエがギケ達の卓へと座り、ため息を吐きながら


『あんたの事は良く知らないが、あの二人に関してそれは同感だな』


 頬杖を付きながら〝風魔法〟で、宙へ浮いた酒を飲む。  


 現状の抜けたメンバーは、下手したら娘に殺されかねないドーマ隊長を筆頭に、欠伸あくび交じりのニッシャと後を追いかけるレミリシャル。


 そして、姿


 何れの者も〝自由奔放じゆうほんぽう〟――――嫌、〝傍若無人ぼうじゃくぶじん〟がお似合いである。


 

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