第183話【勝利の美酒と敗北の苦汁 その5】
運命の悪戯で揃った異様な面子が、互いに無言無表情で向かい合う。
取り残されたメンバーは、喜怒哀楽の全てを封じるマスクをつけたノーメン。
形容するならばそれはまるで白鳥の水浴びの如く、アルコールを体内へと流し込むセリエ。
〝入団祝い〟の幹事を任されたのに、主役達がいない事を嘆くギケ。
と、おまけにわがままボディで能天気なテンザは酒の肴を黙々と頬張る。
それこそ、
最初に沈黙を破ったのは、空気に耐えきれずほろ酔い気味のギケだった。
眼が若干泳ぎつつも頬杖を付きながら泣き上戸になる。
『おぅ、そちらさんも若いのに色々と苦労してんのな……ヒック。〝俺達〟はなぁ……似た者同士って訳だぁ。なぁっ!?』
普段ならいない会話相手がいるという安心感で笑みを浮かべた。
そんなギケの問いにセリエもノーメンも無反応だった。
『はぁっ。まぁとりあえず気を取り直して――――』
やけくそになったギケと酔い気味のテンザが、顔よりも大きなジョッキを片手に持ち口を揃えて言う。
『『男共の熱い宴に乾杯
かち割れる程の音を鳴らす瞬間――物腰柔らかな女性の声がして踏み止まる。
『あの……すみませんお客様。先程の方達と一緒に来店されましたよね?でしたら、これをお渡ししたいのですが……』
複数からなる店員の手には、伝説の龍が如く長い紙が揺れ動きながら待ち構えている。
『おぉ、何やらサプライズが来ましたぞ!それなら、我がテンザにお任せを!つぇいっ!!』
訳も分かっていないテンザはそれを奪い取る。
酔いで視界が定まらぬ中、見たこと無いほど沢山の〝0〟が躍り狂っていた。
『ふむふむ。一、十、百、千、万……百っ!?。なっ、なっ、何ですとぉぉぉぉお!!!』
自由人の寄せ集めの様な部隊では、単独行動等と言う事柄事態が、今に始まったばかりでは無い。
そんな面々の奇行に、セリエは呆れた表情で見つめて呟いた。
『はぁ、全く。あいつらはいつもいつも面倒事ばかりだ……』
怒りで皺が寄る眉間を指で押さえながら、再度ため息を漏らす。
『――だがなぁ、そのおかげで俺は救われたのも事実かも……な』
ふと、呟かれた本音の言葉にギケ達は首を傾げる。
『はっ、何を言ってんだ嬢ちゃん。仲間がいて居場所があっておまけに血の繋がりはねえけど家族がいるお前は紛れもなく幸せ者だぜ!!』
『誰が嬢ちゃんだ。てめぇ……。まぁ、あいつらと出会わなければ今頃俺は、ただの実験体のモルモットになっていただろうよ』
グラスに入った氷を見つめながら、何処か遠い目で話すセリエ。
そこには、今までとは違う別の何かを感じた。
『あ~っもう!!分かったよ嬢ちゃん!今日はとことん飲もうぜ!!』
『だから、俺は嬢ちゃ……いや、そうだな。今夜は飲むぞギケっ!』
『そうこなくっちゃ始まらねぇな!』
肩を一方的に組むギケに、嫌々ながらも付き合うセリエは何処か嬉しそうに笑う。
一方で赤らめるた顔のテンザが、尻を滑らせながらノーメンの横へ付く。
『まっ、この四人でなら払えない額ではなさそうなので私めらも乾杯としますか? ノーメン殿〜』
(俺には妻子がいる。俺には妻子がいる。俺には妻子がいる。俺には妻子が……レミリシャル……)
店内は大穴のせいか物理的に風通しが良く何だかんだで息の合った四人。
互いの理解を知るための長い夜はまだまだ始まったばかりであった。
いつだってあなたが私を強くする 泥んことかげ @doronkotokage
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