第16話【子育て日記2日目】(朝食編その2)


 ――――〝屋敷内廊下〟――――


 片手で引きられる海星ヒトデは、「じたばた」と泣きじゃくる子どものように大人が本気で暴れていた。


「少しは、休ませてくれよおぉぉぉ!!」



 後方で文句を垂れ流す私のそんな言葉には、耳も貸してくれず無言で正面を向いており、長い長い廊下をひたすら引き摺られ、お尻に火が着きそうだった。


(ドレス特注で良かったな~普通だったら穴開いてるなこれ……)


 そんな抵抗も虚しく、しばらくすると嘘のように大人しくなったが、むしゃくしゃして本気で暴れようかと思ったが流石に大人げない?と感じる。


 ぐったりと元気のない人形の様にニッシャが動かなくなる。


 すると頭の後ろへ手を組み、喫煙しながら壁掛けの勲章や写真を眺めていた。


(協会からの賞状にお偉いさんとの遺影記念撮影があるな)


 ぼんやり眺めていると、私を引き摺る張本人は、小さな声でこう呟いた。


「これから貴女には、あることをしてもらうわ」


 人の家で皿洗いに、廊下掃除、それから毎日の日課とか言われて早朝に何十部屋もあるカーテンを開け続けた。


 庭園並みの植木達に水をやったり散々な目に遭っていたため動揺もしなかった。


(もーどうにでもしてくれよ)


 そんな心の声が聞こえそうな程ニッシャの目は、死んでおり、煙草の煙が不規則に天井へ向かい、ニッシャが吐く息はため息混じりで煙たかった。


 ――――引き摺られる事10数分後


 これが永遠と続くかの様に、ドレスと床が擦れる音が段々と心地よい音色メロディに聞こえてくる。


(家と言うより、本当に美術館みたいだなここ)

 そう関心していると一旦立ち止まり、後方で何やら物音がし、続け様に何やら古びた音がすると思ったら再び引き摺られる。


「着いたわよ。あの子達が起きる前にこれから、貴女ニッシャには、【朝食】を作ってもらうわ」


 ――――〝屋敷内調理場〟――――


 昨日の洗い場とは違い食器が無く、広々とした部屋のど真ん中に在るのは、真っ白な調理台が1台あるだけだった。


「デカイテーブルしか無いけど、料理出来る環境じゃないよねコレ?」


 ニッシャが驚くのも無理はなく、調理台と呼ぶに必要な、水道や保存庫と調理器具が見当たらない。


 その上、光景はあまりにもお粗末と言えるだろう。


 あまりの光景に開いた口が塞がらない程、驚愕きょうがくしている私を横目で見ると「クスクス」と笑いながら軽い口調で言い放つ。


「あら、ごめんなさいね。朝食100+4人前だったわ」


 ①私

 ②ミフィレン

 ③アイナ

 ④ラシメイナ

 +100名(!?)


 目が点になり口を、「あわあわ」と震わせるとアイナは、続け様に喋りだす。


「おばちゃんのお弟子さん達のよ。毎日、朝の訓練があるから大変なのよ。ちゃんと栄養バランス考えて作ってよね」


 アイナがおもむろに無地の面を軽く指で叩くと、瞬時に肉や魚、色とりどりの野菜がテーブルを多い尽くすほど現れる。


「調理方法は、任せるわ。今が7時だから、2時間あげるわ。104人前宜しくね」


 動けない私を尻目に小さな体は、調理場を出る前にこう告げた。


「食材は、無限じゃないからくれぐれも焦がさないように」


 一方的に淡々と説明され、昨日と同じ様に私に命令すると調理場に1人取り残された。


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