第15話【子育て日記2日目】(朝食編その1)

〝2日目の早朝〟



 規則正しく一定のリズムが廊下に響く。


 あそこにせわしなく動いている、あか海星ヒトデみたいのがいるだろ?


 そう!!それだよ!それ!私の名前は、ニッシャ――――


 訳あって、シレーネにある屋敷に居るんだが……


(ほら、耳を澄ませば聞こえるだろ?可愛い声とそうじゃない声がさ。)


「ニッシャがんばれ~!!」


「ちょっとスピード落ちてきたんじゃない?」


「おぎゃぁぁぁあ!!」


 可愛く応援してくれている金髪のもじゃもじゃが私の愛するミフィレン。


 んで、小生意気な黒髪のお洒落ボブがこの屋敷に住むアイナって子。


 いつも泣いている妹(?)を抱いていて今日は、片手で本を読んでいる。


 何だかよくわからないけど私は今、はるか彼方にある壁まで雑巾がけの床掃除をさせられているんだ。


 屋敷が馬鹿デカイせいでまだ半分にも差し掛かっていない。


 ちなみに、【小さな応援団】&【小姑こじゅうとめ】&【泣くのが仕事あかんぼう】は、本当に好き勝手やっている。


 髪の毛をいじられ、優雅に読者してるし、ヨダレは垂らされるし......

 まぁ、取り敢えず説明は、こんなところかな。

 ――――〝屋敷内廊下〟――――


 愛しの錦糸卵きんしたまごだけならまだしも他の二人が乗っているのが気に入らない為半ばキレ気味で話す。


「あの~小さな皆さん聞こえるかな?背中がちょっと痛いんだけど?」


 背中には、熊にヤられた傷があり、そこに三人共ピンポイントに座っていた。


「あら、それは、ごめんなさいね」

 悪気もなく、あまりにも素っ気ない言葉を投げられた。


 もう、私に恨みでもあるかと錯覚してしまう上に尚も背中から降りず、態度を変えないアイナに対して大人げなく返答する。


「あのな、どうみても私の方が歳上だよな?」


 そんな問いには、耳を貸さずに、毅然きぜんとした態度をとる。


 静かに本を閉じ、赤子はミフィレンへ受け渡すと、余程お互いが好きなのか背中でじゃれている。

 

 背中から飛び降り、華麗に着地すると、つんいになっている私の正面へ立ち、上から目線で話し出す。


「そうかしら?私、あなたと違って発育が良くないみたいなの。こんな脂肪の塊何て、日常生活に不必要だわ」


 小さな体は、しゃがみ込むとまるで「陶器」を作るかのようにドレスから見える胸元を力強く触りだした。


(コイツ大人っぽいにも程があるぞ)

「歳上の言う事をだな……」そう言いかけた時、アイナの口角が上がった。


「私こう見えて、27歳何ですけど?私より上って事は、30歳位ってことかしら?」


 身長180cmもあるニッシャに対して、アイナチビ魚雷は130cm程しかなく、ミフィレンとあまり変わらぬ見た目と体つきに騙されていた。


(どんな魔法使ったら、こんな小さい生き物が出来んだよ)


「どんな魔法使ったら、こんな小さ……」


 ニッシャは、アイナに対して体の事を指摘しようとした瞬間、本の角で頭を叩かれ、「ゴッ」と鈍い音がした。


 あまりの痛さに頭を抱え悶絶する。


 勢いよく宙へ投げ出されたミフィレンは、赤子を抱きながら綺麗な弧を描きながら1回転すると、まるでヒーローの様に着地した。


 頭に残る痛みに耐えながら顔を見上げていると、人が変わったように「ミフィレン凄い!!」


 とアイナは、拍手喝采をし、先程とは打って変わってニッコリ笑顔で讃えていた。


(もしかしてコイツアイナ、ミフィレンの事……)


 本に付いたほこりを払うと、脇に抱え両手を鳴らす。


「はいはい、やらないと終わらないから続きよろしくね。お姉さん?」


 そう言って不敵な笑みを浮かべると静かに私の背に乗った。


【それから2時間後】


 ニッシャの頑張りがあって全体の5%を拭き終え、「ミフィレン」、「赤子」、「ニッシャ」は、三人揃って大の字に寝そべっているのも束の間、悪魔のような一言が耳にはいる。


ラッシー赤子」と「ミフィレン錦糸卵」は、休んでもいいけど貴女ニッシャは駄目よ」


 小さな体に似合わず豪快にドレスのえりを持つと、まるで魚類でも捕らえたが如く、半ば強引に引きられ、部屋を後にした。


「痛い痛い!?ちょっ!!ドレス擦れるってえぇぇ!!」


 部屋中に響く、ニッシャの悲痛な叫び声は、幸せそうに眠る2人には関係ないのでした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る