第32話【VS〝万足〟現れし闇 暴食編その2】



〝敵の情報は多いに越したことはない〟


 これはどの戦場でも通じる共通の認識であり、攻略するための鉄則でもあるが、例えその道のプロといえどもぶっつけ本番程、力量が出る場面はないのだ。


 この世にせいを得た時から脇役であった、奴の目的は強力な毒の採取と自身の変異、そのために日々の積み重ねを行い、危険種が蔓延る渓谷を暗躍してきたと見られる。


 視覚に頼れないこの状況で、唯一の武器は聴力であるが、万を越えるその足は最小限の音すら掻き消しており、 今どこで何をしているのか定かではない。


 一見不利な状況だが、奴の眼や習性、耳をこちらが利用することは出来るため、立ち尽くしていたノーメンは、魂をぶつけるように闇の中で声を荒げる。


「俺にはお前の気持ちが分かるぞ。影から支えそれに満足していたが、絶好の機会と出会い「力」を手にした……だが所詮お前は「脇役」だ!!物語の主役にはなれん!!」


 奴の特性上、挑発に乗ることを期待し、わざと大声で叫ぶと言う行いは、敵に位置を特定されるため、自殺行為とも取れる行動だ。


 発声が終わり一息く間もなくて、一瞬だがローブのすそが揺れたのを感じ取った時には、体は瓦礫へと沈みながら激しく音を立てる。

 息苦しいほど周囲に立ち込める砂煙だが、セリエが起床した反応はなく、砂が混じった血を無造作に吐き散らす。


「たくっ……ラビット牛人ミノタウロスといい、お前センチピードみたいな脇役野郎といい……どうも、俺を吹き飛ばすのが好きみたいだよなぁ……だが残念……お前の隠密ステルスもここまでだ」


 そう告げ、強く握りしめた拳を開くと、数十はある産毛の様な自慢の足を奴に見せつけるように投げ捨てる。

 微かにする虫独特のにおいと流れ出る血液が、明確にその位置と輪郭りんかくを教えてくれる。


 奇策と考えたが、その行為自体が間違いだった事にその後、思い知らされる。

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