第121話【歩む時と止まる時編その12】


『我らは……長年連れ添い死地を潜り抜けたなのに――――』


 生い茂る髭に涙を滴ながら、大の男の泣く様が見苦しいと感じたユリシャ。


 目の前にいるマスク女を他所に、傷口をえぐるが如く追撃をする。


『そんな対して重要じゃない事、1番弱い奴に言われたくないわよ!!この前だって

〝プリシア城の跡地〟でlevel-Ⅲに囲まれた時、結局一体も倒せてないじゃない!?』


 無表情を貫くレミリシャルは、戯れ言を述べるユリシャ等、そもそも眼中にない。


 そして、仲裁に入った男を見下した様に無言で両手の親指を地面へ向け、冷酷な目つきで睨んでいる様だった。


 互いに胸ぐらを掴み、殴り合いにでも発展しそうだった勢いの、ユリシャとレミリシャル。


 自称〝乙女〟の二人組の矛先は、いつの間にか仲間であるはずの男に集中砲火していった。


『ぐぬぬっ。あれは――――ユリシャ嬢に見惚れてだな。その、えーっと……まぁそんな事は置いといて我々がここへ来た目的を忘れたのか?』


 二人の乙女オニに両の手の平を見せながら、静止しようとした男を見てさらに怒りが沸点に達した女達。


 だが、その時だった―――――


 三巴みつどもえの三人を見掛けたが、ユリシャ達一行に対して雰囲気最悪の中、清々すがすがしく声をかけてきた。


『おっ?入り口付近が何だか騒がしいと思ったけど、あんたら来てたんだ。久しぶり~』


 その瞬間、正に鬼の形相で振り向いたユリシャと表情の見えぬレミリシャルは、ドスの効いた声で威圧的に返事をした。


『『あ゙あ゙ん゙ん゙っっ!!??』』


 その《ある人物》を一早く確認した男は、ホッと胸を撫で下ろすのを我慢しつつ、わらにもすがる思いで望みに賭けた。


『これはこれは……軽い気持ちで帰還したが、とんだ大物が来ましたな。ねっ?ユリシャ嬢??――――』


 男の何だか偉そうな言葉はききての耳にも届かず、意味もなさない文字遊びの様に宙へと投げ出される。


 ……と思えば、さ迷いながら消滅していった。


 目の前の者を〝破壊と破滅〟、〝服従&蹂躙じゅうりん〝し、〝絶対的な支配〟をする事だけを魂に刻み生きてきた一人の魔法使いユリシャ。


 しかし、怒りに任せて振り向いた途端、今まで味わった事のない感情と共に一瞬にして心変わりした。


 先程までよりも4トーン程高い声で、目の前にいる憧れの人物へ、驚きの言葉と共に思いをぶつけた。


『その凛としたお顔立ちと、まるでこの世の者とは思えぬ程の美しい髪質は――――愛しのじゃないのっ!?』


『私達はに会うために遥々はるばる、遠方から来ましたのっ……ウフフフッ』


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る