第122話【歩む時と止まる時編その13】

『お~そうかそうか~。俺に……ねぇ?――――』


 小さな体からは想像もつかない怒涛の勢いに、顔をひきつらせながら戸惑いの表情を見せるセリエだった。


『それとですね――――(大好きな)セリエ様に贈り物が有りますの!!』


 一方のユリシャは愛しの人が眼前にいるので、舞い上がった気持ちを押さえきれずにいる。


 ドレスのすそを捲し上げると、絶対領域の奥からおもむろに


 華奢な両手は真っ直ぐセリエへと向けられたが、くうを掴むその手には


 にんまり笑顔で贈り物を目の前へと差し出すユリシャに対し、当人であるセリエは困惑しながら口を開いた。


『おっおう!?悪いな…』


 視えぬ品物を受け取った途端、とてつもない重量のせいか、視界が一気に下へと移動し、持った両手ごと床へとめり込んでしまった。


 飛び散る破片で頬を切り、たまらず額に皺を寄せながらしかめっ面をする。


 膝を着いて喜んでいると勘違いしているのか、ユリシャは恍惚こうこつな笑みを浮かべていた。


『毎回コレだからこの女ユリシャは苦手なんだよな』と言いたいのを押し殺しながらも、風魔法の助力により体勢を整えた。


 何とか背筋を伸ばし物体の正体を暴く事にした――――


 両手からは、風の浮力と同時に内側から巡らす様に大量の電気を使用する。


 眼をつむりたくなる程の強烈な光を放つに対し、咄嗟とっさに日傘で体を覆い尽くすユリシャ。


 マスクで表情が分かりづらいレミリシャルは、その一点だけを静かに見つめていた。


 髭面の男はユリシャの影へ隠れようと試みたが、『気持ち悪い』『寄るなブス』と言われながら蹴られ、両手で眼を押さえながらもがき苦しんでいた。


『うおぉぉぉぉぉっ!!これは眩し過ぎますぞおぉぉっ!!』


 中央を軸に左右へと力が加わり、〝湾曲〟〝直進〟しながら、迷路の様に巡りながら放つ光。


 それは数秒間続き、その輪郭が徐々に浮き彫りになり始める。


『これってもしかして?』、『嫌、違うよな……』と心で思いながらも、端部まで形成されたと同時にその疑問は、革新へと昇華した。



『おまっ!?これって――――持ち出し大丈夫な奴なのか!?……』


 あまりの驚きのせいか声が裏返しになったセリエを、儚くて可愛いと思ったユリシャは直ぐ様返事をした。


『はいっ!!しましたが、何れ役に立つと思いまして拝借しましたのっ!!』


【生息地〝渇望かつぼう古城こじょう〟危険度level-Ⅳ〝幻影の魂狩人ファントムソウルイーター〟】


(古城を守護する主であり、視認はおろか〝透視魔法〟や〝探知魔法〟でも判別不可な特性に加え、数多あまたの幻覚魔法や高等蘇生術も会得しているため、死すら避けると言われているが――――押し入り強盗の様に現れたユリシャ一行により討伐された)



【所有物、入手難易度level-Ⅳ〝不可視の大鎌インビシブルサイズ〟】


(シンプルな見た目とは相反する程の重量と、一度ひとたび振るえば遠方の生物にんげんをも、〝察知〟されずに〝再起不能状態〟に出来る――――とユリシャは笑いながら言っていた)

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