第58話【誓いの前日編その1】


 それぞれの想いを込めて、数秒の黙祷もくとうを捧げ終えると、一転した様に喋り始める。


「バルクス、感傷に浸るのは、後にしましょう。私達は明日の出発に備え急いで準備をしなきゃね。ミフィちゃん――――夕飯までには戻るのよ?」


 ニッシャが流れている方向を、ただ呆然と見ているミフィレンは、小さく


「うん……」と返事をしただけで、アイナ達が【精神の滝】を出るまで目も合わしてくれなかった。


「ニッシャ……いつもごめんね……」


 初めはミフィレンをニッシャが迎い入れたのが始まりであった。


 病に倒れれば世話をし、時には危険が迫れば身を呈して守り続けたりもした。


 傷だらけになり不器用ながらも、いつだって芯を持った強さがあり、どんな時だって笑顔を絶やさずに我が子を思う母が如く、無償の愛情を与え続けてくれた。


 母となり支えてくれた恩を返すのは、ミフィレンの番。


 ニッシャが居ない今、周りの助力と己自身の力で生き抜かなければいけない。


 ただ泣き崩れ後悔の念だけでは、状況は何も変わらず一歩も前へ進まないのは小さな体でも理解していた。


 〝誰かを想う大切さ〟

 〝儚き命の尊さ〟

 〝失った物の大きさ〟


 心を持った者同士の信頼と絆は形成や維持が難しく、それ以上に壊すのは容易い。

 

 この時、悪戯いたずらにも偶然が重なる事となった。


 送ると送られる者立場が入れ替わった2人の出会いは、同じ様に水辺であり、また別れも水辺であった。

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