第152話【生まれた理由と存在意義その3】


 ドーマは、逃げ出す三人を腕を組みながら得意気に見ていた。


 しかし、先程の言葉が気になり『化け物……か。まぁ、的を得ているだけあって、おじさん傷付いちゃうなぁ……』と、言いながら頭を掻きむしった。


 おもむろに胸ポケットから煙草を取り出すと、慣れた手付きで指を使い火をつける。


 深く吐いた息は白く濁った煙となり、不規則に揺れ動きながら天上へと昇っていく。


『フーッ。さぁてと、三児のパパになったのは良いが、も手が掛かりそうだな……ハハッ』


 つい頭に血が昇り大見得をきってしまったが、自身に課せられた事の重大さに思わず笑みを浮かべる。


 全知全能の神を除けば、ドーマ自身これから起こる事等……予測出来ない。


 だが、前へ進まなければ何も道は開けないし、この場で立ち止まる訳にもいかなかった。


 精霊の力は強大であり、制御出来るのは世界に数知れず、自身も孤独や迫害を味わいながら闘い続けた。


 やがて運命に引き寄せられるように、妻と結ばれ娘が産まれ、ごく普通の家庭を手にいれた。


 あんな幼子にも自身と同じ事を強いるのは、一度経験したドーマも辛かった。


 これは〝世界を安定に保つため〟〝誰かが犠牲にならなければ〟〝星の数程の運命に嫌われた〟――――と、自分に言い聞かす。


 次代に、その〝ちから〟を受け継がせるためにも――――




 ――――〝ドーマの宿舎前にて〟――――




〝火速炎迅〟を発動したおかげで、宿舎には一瞬で来れた。


 さっそく着いたドーマは、自分の家なのに入りづらそうに扉前で円を描きながら歩いている。


(まずは第一印象が大事だ――――自然な笑顔と慣れやすい親近感を持たすことだな)


 決心が固まり『子どもとはいえ、ちゃんと接しないと失礼だしな』と、自身に言い聞かせながらドアノブを持つ右手に力が入る。


 先ほど色々な事が合ったが、改めて新しく〝家族〟となる二人に顔を会わせるため、気を引き締めた表情でドアノブを押した。


 ドーマは家族へ接する様に『お~い、セリエとニッシャ~いま戻ったぞ~!!』と言うが、その声は部屋に響くだけで誰からも返事はなかった。


 ドアと鍵を締める音だけが虚しく耳に届き、

 見回す限りの見慣れた部屋には簡素な作りだが、最低限の家具が自分用と来客用で二人分ある。

 いつもの静寂な自室には、隠そうとしても微かに呼吸音が2つと殺気めいた視線が1つ。


 顎髭を指でなぞりながらドーマは悩む……悩んで、悩んで、悩み抜いた。


 留守をしている隙に自由の身となった体で、


 そんな事を頭で巡らすのが――――しかし、ドーマは色々な意味で違った解釈をする。


 突如閃いたドーマは、頭上に不可視の電球でも光るかの様に『ん?まさかっ……俺がいない間にかくれんぼが始まっていたのか!!』と、無邪気に言う。


 ――――昔から少々鈍感なドーマは、勘違いしているにも関わらず、子どもとの〝触合い〟の気持ちになった。


 同じ歳位の娘を持つ父として、自称〝子どもの気持ちが分かるパパ〟の異名を持っているドーマ。


(さっきはきっと初対面だから照れていたのだろう……)と、自己都合で解釈するドーマはノリノリで、部屋中の隅から隅までを探す。


 あまりの見つからなさで夢中になるあまり、気付いた頃には1時間程が経過していた。


 されど見つからず、やたら大きい冷蔵庫の中を見たり、トイレの貯水タンクにも探しに行ったが二人の姿はなかった。


 気配も殺気もある――――されど見つからない。

 まるで〝雲隠れ〟して、


『おかしいな。後、あのニッシャとセリエの小さな体を隠せるとしたら……』


 ドーマは考えながら、煙草に火を着けようと先端に指を向けたその時――――後方から殺気だった怒声が耳をつんざく。


 それは、うら若き少女の天使にも似た声――――ではなく、年頃の女の子の口から到底出ないような言葉の数々である『もう、待ってらんねぇ!!あたしに隙を見せたが最後!不意討ちだぁあっ死ねえぇっ!!』と言う、物騒極まりない言葉の羅列だった。


 不意討ちの意味が分かっていないニッシャが、ドーマの後頭部目掛けて己の拳を振りかざす。


 不意を突かれたドーマは、部屋に響く鈍い音と共に『うごっ!?』と、変な声を上げる。


 打撃の方向を目視すると『ヘッヘッ!……髭面め、あたしに隙を見せるからこうなるんだっ!!』と、得意気に言うニッシャが腰に手を当てながら指をこちらに向けている。


 その後ろにはセリエが死んだ魚の様な目で『おい、馬鹿。今そのおじさん、分かってたのに。それ位、気付け』と、ニッシャを煽った。


 ドーマを討ち取った余韻で笑顔だったニッシャは『あ゙ん?魔力あるからって調子に乗ってると、ぶっ飛ばすからな?』と、鬼の形相でセリエを睨む。


〝静のセリエ〟に〝怒のニッシャ〟――――互いに譲れないのか、一切動じないセリエに対し、チンピラの様に絡むニッシャ。


 何やら置いてけぼりのドーマは『はいはい。元気でよろしい……だが、でもでもない、これからは君たちの〝親〟だ。気兼ねなくパパと呼んでも――――』


 ドーマが考えていた決め台詞の途中で『『僕は丁重に断りますあたしは死んでも嫌だね!!』』と、こう言う時だけ息の合った返しをする二人。


 まだ10歳程の子ども達に30半ばの大人が『あっ……そうなの?……』と、勢いに押される姿は滑稽その物だった。


は、血気盛んだね。あんまり怒ると早死にするよ?』


『てめぇ……。もう、何かムカつくっ!!』


 挑発に乗りやすい上に手が直ぐに出るニッシャは、に守られるセリエの前で吠えているだけだった。


(やれやれ、この直球具合……アイナと同じ事……言ってらぁ)






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