第97話【VS〝熊〟過去への決着編その4】


(実際問題この状況と魔力抜きで、何処までヤれるかな――――)


 満身創痍の熊には、自ら受けた炎により朽ちた倒木等、眼中に無い。


 体毛が燃え己から出る火の粉を、振り撒く様にして目標へと向かって行く。


 ニッシャ自身に向かって来るに対し、避ける素振りは微塵もない。


 その上、濡れた地面で踏ん張りが効かないながらも、片足を半歩下げる。

 そして、両手を正面に出して迎え撃つ構えを取った。


『熱い思いは、この綺麗なお姉さんが受けて立つ!!――――存分に力を発揮して来いよ!!』


 この時、内心喜びに満ち溢れており、それは闘いへの幸福感なのか、はたまた〝生〟への執着心なのか定かではない。


 1つだけ分かることは、彼女はこの状況でも楽しそうに


 猛突進を繰り出す火の塊が、己の全身全霊を掛け衝突した事により、辺りには衝撃波にも似た鋭い感覚が容赦なく襲う。


 激しく燃え盛っていた周囲の火種は瞬時に消え、静寂の中心に残るのは2つの生物が、己の命の灯火を賭け闘っている姿だけだった。


『耐熱ドレスを着てはいるが、流石に熱いもんは熱いな!!デカさも体重ウェイトも半端ないだけあって、くっ……中々やべぇかもな……』


『ヴオオォォォォォッ!!』


『全力のあんたには悪いが――――ここで負ける訳にはいかねえからさ……今度こそ勝ちに行かせてもらう!!』


 灼熱しゃくねつに燃えたぎる熊の頭部を、で受けるニッシャ。

 焼け焦げた自身と獣の臭いが混ざり合い、吐き気をもよおす様な臭いに不快感を覚える。

 眼前を覆い尽くす執念くま結晶たましいを芯に捉えていた。


 自身への縛り行為と体格差に加え、悪天候による地盤の悪化が災いし、徐々に後退していくニッシャ。

 強がりに聞こえる言葉程の、は既に残っていなかった。

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