第161話【VS〝クレス〟必然的に仕組まれた対峙その1】

『やっべぇ、遅刻遅刻~っ!!ここからの最短ルートは……』


 生憎、魔法何て便利な物を使用出来ないニッシャ。

 彼女が唯一出来る事、それは遅れた時間を取り戻すと言うより、


『まぁ、〝主役〟が行けばそれで一件落着!!』――――と、思っている。


 そんな街の〝超問題児〟のニッシャは、〝1輪ひとわえん〟の入隊のために〝猪突猛進〟道無き道を進む。


 窓から眺められる壮大な風景が自慢な、幾多の家――――、屋根を猫の様に飛び、時には人の頭部さえ足場にする。


 たとえ人混みを薙ぎ倒してでも、自力で協会に向かっていた。


 縦横無尽に駆けるその姿はまさに、何者に も屈しない〝その物だった。


 たとえ200M先でも映える朱色の髪を見たら〝ニッシャ〟と思え、そして全力で逃げろ……と、街の人間ならば言葉が話せない幼子でも知っている有名な話だ。


 そして――――全速力で魔法協会へと向かっていたニッシャが、道中にぶつかったのは他でもない……


 オリシンの 時の宝珠クロノス・スフィア〝序極-叛逆リベリオン〟により、五年前へと飛ばされた煉獄兜武者の〝〟である。


 今や煉獄の主ではなくなり、主君に仕える家来の様に、命令に従っている最中の出来事。


 運命に引き寄せられるように出会った二人は、互いに感じる〝〟により、街中にも関わらず激突げきとつ&死合しあいを繰り広げる――――



 ★


 対峙するニッシャとクレスを中心に、観客達ギャラリーによる野次馬は、まるで荒波の様にうねり出す。


 部隊長のドーマを除けば、誰の言うことも聞かないニッシャ。


 そんな彼女と互角に渡り合える人物を一目見るために、肉壁の隙間から熱視線を向けている。


 人々が行き交う広場で、の朱色髪は非常に目立つ。


 片や問題児であり、に臆することなく立つ刀を携えた男。


 二人の間は静寂その物だが――――周りの人間達は違う。


 非常に好き勝手な〝言動〟を叫び、有る者は見せしめに、また有る者は命を粗雑ぞんざいに扱う者が多数いた。


『こんな〝喧嘩〟滅多に拝める物じゃねぇぞ!おいお前ら、どっちが勝つか賭けようぜっ!!』


『いいぞっ刀の兄ちゃん!!ニッシャをぶった斬っちまえっ!!』


『あんな呪われた子バケモノ何て、とっとと死んでしまえばいいのよ。けがらわしい……』


 沢山の人で溢れ返る広場には生物やそうでない物問わず、様々な音が混ざり合う。


 大人数により感覚が麻痺した観衆は、己が信じる正義のためなら、言葉の暴力を物ともしない。


 目の前のクレスに集中しながらも、〝罵声〟に次ぐ〝暴言〟と人格の〝否定〟は、とニッシャに届いていた。


 普段ならばたとえ1km離れていようが、自慢の〝飛び蹴り〟を問答無用で繰り出していたニッシャ。


 しかし、そんな〝余裕〟も〝隙〟も一瞬たりとも、目の前の人物には与えられない。


殴りつけるHitor斬られるkill〟かの瀬戸際に立たされていた。


一般人守られる者ほど好き放題言うねぇ……1人ずつ顔は覚えたかんな?まぁ、あんな自分じゃ何も出来ない奴らは無視だ。今は――――)


『私が〝何者〟かより、そう言うあんたはどうなんだよ?』


 今、ニッシャに出来る事は暴力での解決ではなく、相手の素性と目的を知る事が先決だ。


 ここでまともに殺り合えば確実に、どちらかが絶命し――――が命を落としかねない。


 それだけは避けなければいけないし、何より未知の相手ほど出来る存在はいない。


 そんなニッシャの思考とは裏腹に、クレスの癖毛のような頭髪は、風を捉えるように揺れ動いている。


 いつでも臨戦態勢に入れるようにつかに右手を掛けており、抜刀の姿勢のまま聞こえぬ声で呟いた。


『フム……我の名は〝クレス〟。の命令によりここへ降り立った。如何せん〝人間〟に使われるのは初めてでな』


 それを聞いたニッシャは、彼女なりに茶目っ気たっぷりで返した。


『へぇ~、物騒な初めての御使おつかいもあるもんだなっ!!』

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