第159話【生まれた理由と存在意義その10】

 

 頭の中で繰り返される〝にゅうたいび〟という言葉の羅列。


 それは、自らにとって……。


 今日という日を心待ちにしていた人が居た……


 沢山の人間が何処かで待っていると思うけど……


 前日祝いか何かで酒を浴びすぎたせいで正直……


 自分なりに〝考え〟、幾度となく〝悩む〟――――をしたが結局、何1つとして分からず仕舞いだった。


 生まれつき短気のせいか答えが直ぐ出ない問題に対して、悩むのは性に合わないニッシャ。


 とりあえず〝眠い〟それだけは嫌でも分かるので、今は最優先であるする。


『あ~眠い。何故か頭も痛いし、何より眠い!』


 濡れた髪を拭いたお陰でグシャグシャになった紙を、乱暴に丸めて無造作に投げ捨てる。


 きめ細かい〝肌〟と女性らしい長く細い〝指〟から放たれた紙は、宙で見事な曲線を描きながらゴミ箱へと向かう。


 しかし――――普段から大雑把で掃除を嫌うため、ゴミ箱の中身は常に山盛りとなっていた。


 そのため……一度バウンドした後、結果的に入らずにに乗っかる。


 床に転がり散らばるゴミを、避ける事なく踏み潰しながら『さぁて、もう一眠りするか。あ~っ、何だか最近は体がるなぁ』と、言いベットへ歩んだ。


 時折、狭い部屋中に反響する『ベキッ、ボキャッ!!』という骨の爆発音を鳴らしながら眠気眼ねむけまなこを擦る。


 千鳥足でベットへと辿り着いたニッシャは、視界がボヤけながらも天井を見る。


 右足を軸に180゚回転すると、無防備な背中から勢い良く着地した。


 それは独り暮らしから使っていたせいか、特製寝具鋼鉄きしむ音がする。


 まだ濡れた朱髪は、乾いている布地の面積をおびやかし、広がりながら模様を形成する


〝静寂〟〝沈黙〟の中に、二度寝が出来る〝安心感〟のせいか欠伸あくび〟が出る――――


『ふわぁ~っ、今日も相変わらず良い天気だな。腹減ったけど、たまには二度寝もありだな~』


 いつでも暴れても良い様に、建物の強度を極力高めるため、窓と呼べる物は寝床の少し上にある四角い小窓を除いてない。


 そこから見える景色は、いつもボヤけていてつまらないものばかりだ。


 太陽が上る朝と昼は、枠の中で有象無象の混合色がうごめいているだけ――――


 太陽が沈み闇が深まる夜は、一面が黒一色と仄かな街明かりだけ――――


 一つでも障害物かべがあるだけで、こんなにつまらない物はないだろう。


 望んでもいないのに人と違う物を持っただけで、生まれてしまう見えない障壁なんて


 、自らの目で外を直接見れるのだから、〝期待〟したり〝想像〟もしない。


 仰向けになりながら無機質な壁を手で触ると、体温が急激に奪われるほどに冷たい。


 それは一流の職人がこしえた物らしく、耐久性に非常に長けており、している。


 ニッシャは事だが、右手で拳を作り力を込めて壁を殴る。


 全力とは程遠い一撃だが、部屋全体をの衝撃しかなかった。


 力を抜き赤みがかった拳を開き、鬱血うっけつした手の甲を見る。


 ひっくり返して手の平を見て直ぐ様、また手の甲を見る。


 ――――何事も無かったかの様にをしていた。


『私には、まだ力が足りない……〝殻〟を破ることも〝壁〟をぶち壊す事も出来ない』


 今の生活には人としての自由がありながらも、底知れない孤独を感じる時もある。


 突然、舞い降りたように〝何か〟を急に思い出したニッシャ。


『今日、大事な用が有ったけど何だっけ…?。あっ!?そういえば……スー、スーッ……』


 数秒の自問自答はあったが、睡魔で重くなったまぶたを閉じ、ニッシャは考える事を放棄する。


 次に目覚めるまで僅か数秒の出来事でしかない……非常にが強いニッシャは、とても鮮明な夢を見ていた――――


 

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