第136話【〝VSギケ〟餓鬼の断壁での死闘その2】


 人を小馬鹿にした様なセリエの言葉に、機嫌を損ねたギケは、腕をXクロスにさせながら高らかと叫んだ。


『人が大人しくしてれば調子乗りやがって――――年長者はいたわれと教わったろうがぁあ!!』


 数十――――否、数百にも及ぶ四方八方を覆うクモの巣状の糸が、セリエを中心に迫っていく。


 憎悪と殺気を放ちながら荒ぶる糸は通常、視覚での認識は不可能とされている。


 だが、怒りに身を任せた今のギケは、致命的なミスを犯していた。


 精密な魔力調整と熟練の技術により、視認不可としていた〝神の見えざる糸〟。


 しかし、即殺や暗殺に長けていたその糸でさえ、風魔法を得意とするセリエには、


 殺傷性を極限に高めた最硬度の糸でさえ、どこかに必ずほころびは存在する。


 糸は空間を切り裂くようにセリエへと向かった。


 しかし、不可視の存在であるが故に、その発する音が居場所を教えてくれる事により、悠然ゆうぜんと対処を行うことが出来る。


 怒りに任せて放った一撃でほうむられたのは、セリエの肉体ではなくギケの糸であった。


〝不可視の大鎌〟-形状変化-〝狂風の軌道〟


 まるで主を守護する様に漂う風が、生命を宿しているかの如く魔力を帯びた糸を食していた。


 その魔法は、平然と目の前に立つセリエ。


 まるで

 生き物に接する様な仕草をしていた。


 時に優しく撫で、時に声をかけながら家族に接するが如く触れ合っている。


 一頻ひとしきりのたわむれ後、口角を上げながらも冷静に話し掛けるセリエ。


『さっきから先輩先輩って言うけどさぁ~。あんたら〝一輪ひとわえん〟が五年間何してたか知らねぇけどさ、あんたみたいな仲間を売るような奴は人間ですらねぇぞ?』


 ギケは膝立から立ち上がると、視線が定まっていないのか空を見上げながら叫んだ。


『五年間?聞きてぇか?。、ドーマを殺した奴に復讐するために俺達は生きてきたんだよ!!』


 セリエは人の言葉に乗る振動で、相手の感情や誠を知ることが出来る。


(今のは変だな――――悲しみや苦しみ、恨みや妬み……全てが詰まってる様だ。それに、》。だが、何かがおかしい……)


 頭のなかで考えるが答えは出ず、迷宮に近い悩みの渦の中、次に発するギケの言葉で謎が解けた。


『ある日の任務途中で俺達は、使。時を止める力で仲間が動けない中、唯一動ける俺だけは〝奴〟の首を狙った』


 ギケは自らの首に指を当てると、横に切る仕草をしながら話を続ける。


『そして〝奴〟の首を自慢の糸で空中へと飛ばした。俺は勝利と栄光を手にした……』


『だが、余韻に浸ろうと振り返った時――――確実に死んだ筈の〝奴〟は、笑いながらであや取りをしていたんだよ』


 相変わらず焦点の合わない視線で髪の毛や顔を激しく掻きむしると、皮膚から血を流している様で、時折何かが垂れている気がした。


『頭の良い俺は、その時悟ったよ……高々〝炎の精霊〟如きに執着していた過去の自分を殺したいってな?』


 そう言って深い吐息と共に、悲鳴にも似た叫びを上げる。


 ギケは頭に人差し指をゆっくりと第二間接まで埋め込むと、気色悪い笑みを浮かべながら口を開いた。


『まぁ、文字通り――――自分の命を奪うって言う貴重レアな体験……あの興奮は最高だったぜぇ?』

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