　生きとし生ける物、全てにおいて〝時〟は無限ではなく有限であり、どんな事象も干渉不可とされていた……そう、ヤツが来るまでは――――

　ノーメンの命を賭した最後の一撃は、万足を捉える直前にその動きを止める――――否、全ての時が止まっており、音もなく静寂に包まれた状態が漂っていた。

　それはまさに時を自在に操る力であり、この世の森羅万象、あらゆる事象に干渉可能とされる、この世で最も規格外な力である。

〝時（クロノス）の（・）宝珠（スフィア）〟

　突如として現れた謎の人影は、防御に撤し固く身構える万足（センチピード）を、触れずして別空間へと飛ばす。

目を開けられないほどの眩い光を放つそ（・）れ（・）に対し、軽く手を触れただけで跡形もなく消し去る。

　年齢不詳、男女さえもわからぬその声の主は時の静止した中、平然と消え行く命に歩きながら語りかける。

死闘が繰り広げられた地は、歩（ほ）を進める度に周囲の破損箇所が元通りになってゆく。

鼻歌混じりでノーメンに向かって歩く謎の人物は、見上げる様に話し掛ける。

「万足（あれ）いずれ使うから貰っとくね？貴方、見ない間に随分と酷い顔になったわね。こんな所で死なれたら私の計画が台無しになるからやめて欲しいな？」

〝時（クロノス）の（・）雫石（ドロップ）〟

　黒地の手袋を外しながそう言うと、元の姿など見る影もないノーメンの頬を優しく触れる。

途端にまるで元から傷がなかったかの様に瞬時に治る。

元通りになったノーメンの顔を見て、両手を鳴らしながら口を開いた。

「ほら、これで元のイケメン顔に戻ったじゃない！！それとこれを着けてお仕舞いね！！」

　粉砕していたマスクもついでに復元させると早々に顔に着け、一周回って身だしなみを整えると満足そうな笑みを浮かべる。

　元通りに治癒したノーメンを後にし、鳥籠の中のセリエに触れようとした――――その時、まるで拒まれる様に手が後方へ弾かれた。

確認するとノーメンの〝無意味（ミーニングレスネス）〟により、見るも無惨な状態で手が焼け焦げていた。

「痛った～い！！見（・）え（・）な（・）い（・）バ（・）リ（・）ア（・）も厄介ね全く……まぁ私にはそれこそ無意味（ミーニングレスネス）だけどね」

　まるで自動ドアが開くように解除されると、そこには友に最後の別れを告げるように、左目から大粒の涙を流しているセリエの姿があった。

「君達をここで殺すのは容易いんだけど、今は止めとくね。だから――――もう少ししたらま（・）た（・）会（・）お（・）う（・）ね（・）？それじゃ、ばいば～い！！」

　いつの間にか戦いの記録（あと）は消え、まるで初めから無かったかのように、一瞬で消えたその人物は、思いを言い残すと再び時が動き出した。

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