第132話【奈落からの洗礼と復讐せし者その8】


 男の唐突な言葉にセリエは思わず『あ゙んっ!?』と、普段なら出ないであろう、ドスの効いた低い声で反応する。


 セリエの高圧的な態度に一瞬だけ眉を動かすが、『フム……』と胸元まで伸びた顎髭を撫でながら言った。


『まぁさ、そう恐ぇ顔すんなよ?お前等が何故ニッシャあの女を庇うか分からねぇけど、抵抗しない今がチャンス何だよ』


 アイナを抱えたまま微動だにしない男は、身振りや明るい口調で話こそするが、どこか得たいの知れない薄気味悪さを醸し出していた。


 事実――――危険因子の討伐やがあるならば、動けない今が得策だと言えるだろう。


 だが、セリエは協会の上層部の人間〝シバ〟の頼みによって動いている。


 つまり――――奴が独自に行動していると言うことは、それにめいだと感づいていた。


 沸々と煮えたぎる気持ちを抑え、セリエは相手の素性を聞き出すために、会話の中にを入れる。


『隊長が殺されて5年が経ったが、今更何が目的だ?あんたらドーマ隊長率いる〝一輪の炎〟でのだろ?』


 男は想定外の質問に数秒の間隔が空くが、変わらずの口調で自らの思いを述べた。


『そりゃぁ決まってんだろ?敬愛し尊敬していたドーマ隊長の仇だよ。だから、そんな隊長殺しのニッシャを許せねぇ……』


 セリエは男の話を聞いていたが、に即座に気付き、あおる様に返した。


『ふ~ん……バレバレな嘘つくの下手すぎだぜ、おっさん。どうせニッシャの中に宿る〝炎の精霊レプラギウス〟を奪うのが目的だろ?』


 セリエは見下す様に男を眺めながら、嘘を見抜いていた。


何故なら――――言葉や動作に悲しみが乗ってない上に


 咄嗟についた嘘がバレ、セリエの考察が的を得ても動じる様子はなかった。


 それどころか逆ギレをし高圧的に返答をしてきた。


『あ~悪い悪い、我ながらつまらねぇこと言ったわ……んで、そうだとしたら何か文句あるか?』



 両者の会話に殺気が帯びた頃。


セリエの攻撃範囲から逃れている筋肉自慢二人は、抱き合いながらも下方にいるセリエの様子を伺っていた。


 セリエと男が対峙し睨み合いが拮抗する中、必死にしがみつくバルクスのウザさと重みに耐えるノーメン。


 例え唾や鼻水で黒のローブが汚れても微動だにせず、耳を澄まして互いの話を聞いていた。


 バルクスは状況が読み込めず、腹から出す大声でノーメンに質問をぶつけた。


『ねぇ、ノーメンさん、巨蛇上でアイナさんを抱えている、あの髭面陰気野郎は一体誰何ですか!?』


(一輪の炎か、懐かしいな――――ドーマ隊長が率いていた協会の精鋭部隊……それぞれが危険度level-Ⅲを出来る程の力を持つと聞くな)


 ――――ノーメンは考え事をしていて、無視されるバルクス。


『お~い!!俺の話聞いてます?!!それと絶対に落ちないですかこれ?……何でもいいから俺と会話してくださいよ~!?』


(痩せ細った体にあの見窄みすぼらしい風体を察するに、あれは……〝操糸そうしのギケ〟)


 まるで最初から存在しないかの様に、無視されるバルクス。


『バーカバーカっ無口筋肉!!顔無しっ~!!』


(隊長亡き後、へ行ったと聞いていたが、さて……荷物バルクスを置いて加戦するか否か)


 ――――思考しながらもノーメンの右ストレートを、腹部に食らったバルクスの意識は、深い暗闇へと誘われた。




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