第131話【奈落からの洗礼と復讐せし者その7】


 まるでセリエの怒りに呼応するかの様に、二又に分かれた舌を使い、獲物を探る巨蛇が姿を現した。


(頭部のサイズからして全長100Mが良い所か。こっちは魔法で浮いてはいるが、見辛ぇ暗所に加え、最悪逃げられる可能性が十分にある。地の利は巨蛇ヤツに向いているみたいだ)


 セリエは空中で悩んだ末に、先程シレーネから飛んできたを使うことにした。


不可視インビジブル〟+〝風精霊ウィンド〟 ――――〝颶風ぐふう大鎌おおがま


 セリエは風魔法で具現化させた鎌を浮遊させ、予備動作無ノーモーションで巨蛇に向かい横一閃にぎ払った。


 その一撃に音は一切なく。


 切られた事にいまだ気付かない巨蛇は、体のバネを使いセリエに向かって飛び付いた。 


 双方の間合いは距離にして僅か1M弱。


 巨蛇は大口を開けるのに対し、雷魔法を球体状に圧縮したのを手の平に造り出す。


 まるで水面に1枚の葉を浮かべるが如く、ゆっくりかつ静かに獰猛どうもうな巨蛇の鼻先へと手を添えた。


 双方が接触した瞬間、巨蛇の体には強烈な雷にも似た強烈な一撃が走る。


 闇が深い奈落一帯を一瞬だけ、真昼と疑う程に照らし出した。


 セリエに捲き込まれないように避難しているバルクスは、眩しさのあまり腕で視界を隠す。


 特殊加工されたマスク越しに見るノーメンの瞳には、勝者と敗者の明暗がハッキリと映っていた。


 やがて、光が晴れそこに立っていたのは、巨蛇を討伐したにも関わらず、セリエが空中で浮いていた。


 一撃を放つ前、雷の魔力を巨蛇の体内へと巡らせ、体内にいるアイナの位置を正確に把握したのち、糸を通す様な超正確な攻撃をしていた。


(俺の勘だと、微弱な魔力はアイナちゃんだろうな。それにしても変だな……ここら一帯を切るつもりだったのに、――――)


 何か腑に落ちないセリエだったが、アイナを救出しようと巨蛇へと近寄る。


 微かに感じる気配……


 力なく崖に垂れ下がる長尺な体から、


 ゆっくりと蛇の皮が人型に盛り上がりながら、辺り一帯に生々しい音が響き渡る。


 セリエの嫌な予感は見事に的中してしまった。


 巨蛇は張力の限界が来たのか、肉は割け血飛沫が岩肌に付着し、中からアイナを小脇に抱えた何者かが現れた。


 そいつの主な特徴は、生臭い血にまみれた上半身裸に加え、無精髭と手入れのされていない無法地帯の様な長髪。


 一番気がかりなのは仮にも危険度levelⅣ付近に、


 噴水の様に湧き出る血液だが、幸いな事に風精霊ウィンド恩恵ベネフィットにより、アイナは綺麗な状態で気絶している。


 男は空いている右手で顔の血を拭うと、バツが悪そうな顔でおもむろに口を開いた。


『おい、てめぇ……人様の住居へび、ぶっ殺しておいて謝罪もねぇのか?』


 まるでの様な男の言葉には、威圧感はあれどまだ眠いのか欠伸あくび混じりだ。


 不機嫌そうな男に対し、セリエはこの男の正体にいち早く気付いていた。


(クソッ、とんだ貧乏くじ引いちまったな……で|餓鬼の断壁に居るってことは、狙いは恐らく――――)


 そう考え込むセリエからの返答がない男は、目を細め暫く無言になると思い出したように大声を出した。


『んっ!?その2色翠と琥珀の髪……お前ぇ、セリエか?見ねぇ間にたくましくなりやがったなぁ。会うのは5年あの時振りか?』


 尚もセリエからの返事はないが、男は調子よく明るい表情で口を開いた。


『いきなりで悪いけど、ちょっと!!』


 姿勢低く右手を顔の前に出し、何度もお辞儀をする男に、セリエの心に〝不快感〟と〝嫌悪感〟それに〝不吉な予感〟が混在する。


 勿論、その直感は的中する事になる。


 まるで当たり前の様に喋りだした内容は、こうだ。


『これから〝晦冥の奈落〟でニッシャって言う女、蘇生させんだろ?そいつさ悪いんだけど……』だった。




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