第177話【VS〝一輪の炎〟圧倒的な格の違いその11】

 十字架に括られた人物は絶命はしていないものの、四肢を杭で打ち付けられており悲鳴の声も上げず微動だにしていない。


 耳を澄まして僅かに聞こえるのは、微かな呼吸音と


 あまりの意外な光景を目の当たりにして、内に隠せない驚きを口にするニッシャ。


『一体これは、どうゆう事だよ。何で〝アイツ〟が……』


 その言葉を掻き消す様なが、柔らかな風と共に耳へと届く。


 特徴としては陽に当たり翠と琥珀色をベースとした、髪色と同色の瞳が燦然と輝き放つ。


『そんなの、何処に売ってんだ?』と、ツッコミたくなる程の服装や小物は、ストライプ模様を全面に押している。


 並びに、〝素敵に華麗に綺羅美きらびやか〟にデコレーションされた日傘を身に纏う姿


『あら、やっと終わったのかしら?――――。そう言えば、ご紹介が遅れたわね。わたくしは見るも美しい存在である〝ユリシャ〟よ』


 優雅な自己紹介と共に、紅茶と日傘を手に持ち地上へとゆっくり降下していった。


 ニッシャは天から舞い降りる〝声の主〟の方向へと、喧嘩腰の鋭い眼光で睨み付けた。

 

〝ンッンッ……コホンッ〟と、少しだけ改まりながら話始める。


 その言葉は〝上から目線〟であり〝先輩から後輩〟への、


が、わたくしの後輩を倒すなんてやるじゃない。良い?これからはあまり調子に乗らない事ね。何故なら――――』


『――――おい、フリフリ衣装のさぁ。私は、勝ったんだ……高見の見物決めてないで早くここから出せよ!?』


 長い話を聞き終えるが我慢できずに、先輩の有難い言葉を平然と遮るニッシャ。


 華奢な腰に左手を当て右指はしっかりと、小刻みに震える先輩を差していた。


 数秒の沈黙後、返事のない女性に対してニッシャは再び〝口撃こうげき〟を仕掛けた。


『何だ?……ビビって聞こえなかったのか?。なら、もう一度言ってやるよ!!早くここから出せよ!――――』


 意気揚々としていたニッシャだったが、言葉の続きが出なかった。


 否、


 一呼吸の間もなく、刹那的な瞬き以前に、鼻先寸前まで近付いた〝般若顔せんぱい〟がそこにいたからだ。


 ユリシャお気に入りの日傘は瞬時に消え、身長差のためか宙に浮いて片手で胸倉を掴む。


 そして、天然ではないオッドアイの眼を見開きながら


『あ゙ん゙っ?今、何つった?ドーマ隊長に〝手を出すな〟って言われてっから殺らないでいるけどよぉ。


 大気を震わせる怒声を発しながら、親指で戦いの残骸である後方を指差す。


 そこにはニッシャが苦戦したクレスの姿があり『次はお前がこうなる番だ』と宣言しているみたいだった。


 ニッシャは潜在的に備わっていた本能で感じ取る――――


(あっ……これは、ヤバイ。普通に平然と笑って〝るタイプ〟だ)と。


 唖然とするニッシャに機嫌が悪くなったのか、今度は両手で胸倉を掴みながら前後へ激しく揺する。


『おいテメェッ!!腹から声出んじゃねぇのかよ!!?さっきまでの威勢はどうしたんだ!?』


 血管がはち切れんばかりに浮かび上がり、込められた指先は首を十二分に締め上げる。


 呼吸困難になりながらも、幾多もの選択を、悩み悩み抜いて考えに考えた末。


 残像が見えるほど揺すられたニッシャは――――〝己をこの場だけ捨てる〟事を誓った。


 朱色の瞳で〝上目遣い〟を駆使しながら


『あぁっ……美人なお姉様無礼を働いてごめんなさい!!私は許してとは言いません。ですが、貴女の絶世の美しさに嫉妬していただけなの!』


 と、普段からのギャップからは想像出来ない態度を取るニッシャ。


 火を見るより明らかな嘘泣きと、不恰好ながら必死の思いが伝わったのか


『フフフッ……やれば出来るじゃない!ご褒美に〝良い子良い子〟してあげるわ!!』


 と、天使の微笑みを向けるユリシャは、ニッシャ自慢の朱毛を両手で乱れさせると、宙に飛びながら魔法壁外へと消えていった。


 姿が見えなくなったのを確認し『あぁ言う女って心底恐いな……』と、捨て台詞を吐く。


 ほぐれた体を鳴らしながら出口へと向かう途中で、命拾いしたこの時ニッシャは、人生で初めて激しく心で思った――――


 表面でも裏面でも、……と。


〝ドーマ考案・一輪の炎による突発試験結果〟


 暗姫ユリシャ焔獄クレス――――4648でユリシャの完封勝利。


 暴犬ニッシャ消極レミリシャル――――2分48秒でニッシャの技有。


 尚、隊長ドーマの意向により、勝者敗者に関わらず両名合格とする。


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