第176話【VS〝一輪の炎〟圧倒的な格の違いその10】

 気が付けば今度は自らが劣勢に立たされ、混乱するレミリシャルは、考えうる限りを振り絞って言葉へと変える。


 沸々と煮えたぎる様な怒りの表情とは裏腹に、か細く振り絞る様な声を出した。


『人間離れした〝力〟のおかげで……あんたの体が幾ら再生するからってさ……何でそこまで無茶が出来るんだよっ!?


 それは、胸を締め付ける様に苦しい大きなかせであり、何れは〝精霊の使役者〟となるには不必要な感情。


 両者は、生まれ方や思想は違えど〝消耗品の命と人ではない自分自身に苦しめられ続けた〟


 と言う同じ境遇だからこそ……


 やり場のない〝悲しみ〟と〝苦しみ〟をぶつけ合い、助けを求めるレミリシャルに対して、ニッシャは再び笑みを浮かべ口を開いた。


『あん?足がもげようが、腕が折れようが、そんなのは。だけどな、そこで止まってちゃ何も変わらねぇだろうがよ!』


 骨が折れ、血が沸き、肉が断ち切れようとも〝彼女〟は自身を変えようと――――


 まばたきの間で烈火の如く形勢逆転すると、舞う鮮血は宙に弧を描く。


 銀眼に映り込むその朱眼は、何処までも晴れ晴れしい蒼天を見上げている。


 肉体的に傷付きながらも見るも美しい〝綺麗な出で立ち〟は、その荒んだ心を引き込むと強烈に魅了した。


 力一杯に振り下ろす勢いを最大限に活用したニッシャは、鋼鉄よりも硬度な額に思いを込める。


 ――――人は必ずしも一人じゃないんだ。


 ――――自分だけが世界で一番辛いフリをするな。


 何処にいても聞こえる声量と、天を轟かす勢いを持って〝吠えた〟。


 ――――私が……


『この〝私〟がどんな時も、


 額とマスクの接触と同時に火花を散らせながら、地を揺らす程の衝突音が辺り中へ鳴り響いた――――


 全体重を額の一点に込めた渾身の頭突きが、己の殻マスクの破壊と共に見事に炸裂した。


 そして、頭部への集中的な打撃により足が浮き、ゆっくりと力無く地へ叩きつけられる。


『がはっ……。そ……んなっ。こんな所で――――に、……』


 大きな傷を負っていた顔は、流血で染まる眉間のシワが取れ、まるで眠るように気絶していた。


 左右によろめきながら立ち上がるニッシャは、


『思いっきり殴りあって、二人ともスッキリしたし……私達、もう仲間だろ?!!――――先輩さん!』


 そう言うと、折れた右親指を無理やり直して堂々と向ける。


 勝ったら喜びと嬉しさで涙する。


 負けたら悲しみと悔しさで涙する。


 同じ様で実は意味の違う2つの〝涙〟。


 どちらも己を成長させる恵みの雨であり、その経験は後の人生において活きていく。


 頬を伝う涙が果たしてどちらだったのかは、安らかな笑みで眠る本人のみぞ知る。


 レミリシャルを背に歩むニッシャは、体中の関節や骨を鳴らしながら〝例の2人〟を取り敢えず探す。


(意気揚々と来たチビ女とクワガタ野郎は、私達よりも……見当たらないけど何処にいんだ?)


 1mmも隙間は無かったくせに『正直まだまだ余裕だったな』と、相変わらず強きな言葉を口にする。


『あ~あ……。〝入団試験〟って言っても、こうもされると、物足りない気分――――』


 ふと、辺りを見渡せばで斬り取られた地面。


 ここは火山地帯なのか?…と錯覚してしまいそうになる程、草木は燃え尽き流動する炎が立ち並ぶ。


 先程までのニッシャvsレミリシャルが〝小手調べ〟ならば、目の前のこの有り様はさながら――――と呼べる。


〝悲惨〟〝凄惨〟〝惨事〟全てを引っくるめた物が、魔法壁内に全体へと広がっていた。


 思わず息を呑み呼吸さえ忘れた光景に、自然と一歩だけ後退した。


 すると、背中全体に予想だにしなかった


『おっ……!?』と声を出して驚きながら数m飛び退き、目を凝らして〝それ〟を確認する。


 顔や特徴は煙で見えづらいながらも、〝十字架〟に縛られた人物の姿が、ニッシャを2度も驚かせた。








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