第178話【勝利の美酒と敗北の苦汁その1】

 魔法協会の中央広場にて、現役メンバーとの手合わせをしたニッシャとクレス。


 天地程の差を見せられた両者の勝敗にかかわらず、ドーマの計らいもあり入隊試験に何れも合格をした。


 そして、シレーネ市街にある飲み屋〝夜茶屋酔よっちゃや~よ〟にて、一輪の炎は新人歓迎会の真っ最中である。


 主催であり上司でもあるドーマ必死の頼みでさえ、〝暗姫のユリシャ〟は参加をかたくなに拒否したとか。


『新入り苛めお疲れ様ユリシャ。今後の親睦を深めるためにもこれから一杯どうだ?』と軽く声を掛けた時の返答が


『はぁっ?歓迎を兼ねた飲み会を開く?特注品の最高級セリエ様カラーのドレスが汚れるから嫌』と言う理由で欠席。


 そんな事があり普段は酔いどれびとが右往左往している場所で、一際大きなテーブルと一列三人の計六人分の椅子に各々が座っていた。


 本日の主役の一人であるニッシャの左右にはレミリシャルと、ユリシャに敗北しながらも入隊を許されたクレスが無言で座っている。


 ニッシャの向かいには見るからに暑苦しい男が、煙草数本を咥えながら満面の笑みでメニューを眺めていた。


 脇にいる部下の両名は、お気楽な隊長とは真逆に、腕を組ながら新人達の観察を行う。


〝魔力なし〟とは言え、レミリシャルに勝利したニッシャ。


〝動機が不明の存在〟であり、ユリシャに瞬敗せども実力が未知数のクレス。


 将来的な可能性に満ちた二人を、


 しかし、どんな思惑があろうとも今のニッシャには、非常に耐え難い事が現状にある。


 それは――――煙独特のむせ返る臭いが鼻につく事。


 あまりの嫌悪感によるせいか、女性らしい二指で思わず鼻を摘まむ。


 法的にも飲酒を出来る歳になっていたが、どうも


 ドーマやギケ&テンザの〝オヤジトリオ〟が吹き付ける煙を、文字通り煙たい顔で睨みつけた。


 その間にも店内には幾多の注文が飛び交い、笑顔絶えない客の声で常時盛り上がっている。


 静寂さを微塵も感じない雰囲気の中で、最初に声を上げたのは、非常に苦い顔で嫌がるニッシャだった。


 冷静を装う声色は、大人しくも怒りに満ち溢れながら


『あのさ……〝〟の説明を誰でもいいからしてくれない?』


 そう言いながら人差し指が差した先には、くびれのある腰元に強く抱き付きながら


『お姉様、お姉様~!一生側にいますから~!』と離さぬように、甘えるレミリシャルの姿があった。

 

 答えを求める瞳を正面のドーマに向けても、髭面の笑みを向けられる始末。


 終いには特大のジョッキを一口で飲み干して『カァッ~!!うめぇぇ!』と本日の酒の肴にされるだけ。


 隣にいるギケには我関せずの雰囲気で、完全無視を決められた。


『自分関係ありませんから』みたいに焼き鳥を頬張るテンザに視線を送るも、咀嚼と共に〝サラダの盛り付け〟で精を出している。


 魂が抜けたように天井を眺める〝戦意喪失のクレス〟は無言のまま脱力感に浸っていた。


 誰も私の話を聞いていない?――――嫌、コイツら……


 確信したニッシャの口角は、信じられないくらい上がり出す。


 やり慣れない笑顔も手伝って、額に稲妻の如く血管が浮き出たニッシャ。


『どいつもこいつも……いい加減にしやがれっ!!』


 脳から指令が送られた怒りの鉄槌は、大声で吠えながら卓上へと繰り出される。


 だが――――瞬時に展開されたギケの〝堅糸けいと〟が緩衝材の役割となり、ドーマの〝盾炎じゅんえん〟が威力を殺す。


 そして、テンザの〝魔法壁マジックウォール〟によって、店が倒壊するのを未然に防ぐ。


『まぁ、ドンマイだ新入り。もう、レミリシャルとは〝婚約〟したようなものだしな。お幸せにしてやれよ~』


 そう言って謎に諭すギケの眼は、悟りを開いた様に良く笑っている。


女子おなご同士の愛とは……ハァハァ……。こりゃ、堪りませんですなぁ~』


 と危ない趣味が発覚したテンザは、鼻息荒く興奮気味の様子。


『事情は省くが、そう言うことだニッシャ!!。〝一輪の炎〟入隊&〝結婚〟おめでとう!!』


 と拍手しながら気の毒そうに笑うドーマは、自身の体験を誰も聞いていないにも関わらず語りだす。


『俺も若いときに任務帰りの銭湯でな。ノーメンの素顔を見てしまってさ……。危なく〝禁断の世界〟に染まるところだったんだぞ?嫌~先に結婚してて良かったわ!!』


 茶目っ気たっぷりに思い出を口に出すドーマと、それを聞いた〝一輪の炎〟メンバーは、意図せず複雑な思いが重なる。


 この男――――((((サラッと、とんでもねぇ事を言いやがったぞ))))

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