第95話【VS〝熊〟過去への決着編その2】

 ――――〝精神世界-場所-森〟――――


 辺りは暗闇であったが匂いで分かる――――


 その場所は懐かしくもあり、今では、かけがえのない存在であるミフィレンと、初めて出会った想い出の地でもある。


外の園ココには、随分と世話になったな。まさか死んでるのに来れるとは、我ながら傑作けっさくだな』


 ニッシャは未だにうずく、の背中に受けた大きな爪痕つめあとを、手で触れながら懐かしく感じていた――――


 そう、ドーマを亡くして以来、初めて自分の意思で誰かを守った事により得た、大事な一つの想い出だ。


『炎使いって知ってるくせに、雨何て降らせやがって、ムカつく位あの時の状況に酷似してやがるな……全く――――凝り性も大概たいがいにしろよな?』


 降りしきる大粒の雨に朱髪は地面に向かって垂れ下がる。


 口に咥えている湿気った煙草を指で弾き、熊に向かって投げ捨てた―――


 と同時に〝火速炎迅-Ⅱ速〟を発動させ、瞬時に距離を詰め正面から殴りに行った。


炎武えんぶ一の段‐一火次炎ひかじえん


 四足で悠然と構える熊は、雨を受け水蒸気を上げながら燃え盛るニッシャの両拳にタイミングを合わせる。


 唸り声を上げながら、高さ6Mもある体躯を生かして鋭利な爪を振り下ろした。


 ニッシャの右拳は熊から繰り出される両爪と衝突。


 均衡した両者の一撃は衝撃波を生み出すと同時に、まばたきにも満たない一瞬だけ――――


 無防備な肌を打ち付ける様な雨が止んだ。


 破損した熊の爪が地へと落下するその間。


 刻にしておよそ0.5秒と短い時の流れの中、残る左拳に魔力ほのおを移し、がら空きになった腹部に向かって渾身の一撃を放った。


『グオオオオオオッ!!』


 腹部へダメージを受けた熊は、雄叫びを上げながらも逃げ出す素振りはなく、真っ直ぐに獲物であるニッシャから視線を外さなかった。


 思い出した様に再び雨が降りだすと、痛みで吠える熊がニッシャから数歩下がり、焼けた体毛の匂いが鼻腔びこうに突き刺さる。


『熊公、あんたに恨みはねぇが、私の修行のかてになりな!!』


 左に集中した炎を右に分け与えると、森を包む暗闇を眩い灯りが照らすように、両の拳を握りしめ再び構える。


『そんな程度の実力じゃ、まだまだ体は温まらないからさ!!さっさとかかって来なよ――――なぁ、こ・ぐ・ま・ちゃん!!』


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