第114話【歩む時と止まる時編その5】


 周囲の心配を他所に、堂々と吐き散らすリメイシャン。


 呆れると言う感情を通り越して最早、感心してしまったシバは、モップやバケツを巧みに使う護衛達を、後ろで手を組みながら見守っていた。


(酒を飲んでも呑まれるなと良く言うが、珍しい事だな……)


(リメイシャン先生はアルコールの飲み過ぎだな。たくっ毎度毎度――――まぁ、


 と心の声が今にでも聞こえそうな程、清掃する護衛二人の顔は険しくもあり、そして男らしく逞しい表情をしていた。


 あらゆる事象に慣れた護衛達の手際の良さにより、濡れた箇所だけ光沢を放つ鏡面仕上げとなっていた。


『すまんねぇ、シバちゃんと護衛の坊や達――――次する時は、掃除しやすい様に綺麗にするからのぉ』


『お主には、本当に世話がかかる……少しはワシを見習え!!このダンディーでワイルドな歳の取り方をだな――――』


『何を見習えってんだクソじじい!!傍観してただけで偉そうな事言うんじゃないよ!!』


 例の如く仲の良い掛け合いをし、安心するのも束の間。


 青ざめた表情で走りよってくる人影が、息を切らせながら絞る様な声で四人の前へと現れた。


『ハァハァ、お二方、お話し中失礼致します。シレーネにて非常にが、一瞬だけでしが有りました……しかも協会に登録が無い上にその発信源は、リメイシャン先生の敷地内です!!』


 それを聞いた老体シバ老婆リメイシャンは、互いに驚く顔を見合せて、寸分違わぬタイミングで言葉を発した。


『『それってまさか――――か!?』』


『そうと分かれば、トロトロとしちゃ居られないねぇ!!老体シバちゃんや、晩酌ばんしゃく前には戻るからのぉ!!』


 突然の事で思考が止まり硬直するシバと対照的に、眼を輝かせ息を吹き替えしたリメイシャン。


 手に持っていた杖を置き去りにし、老人とは思えないスピードで、急ぎ早に捨て台詞を吐きながら走り去って行った。


 唖然と立ち尽くし、閑散とした通路で取り残された男達の考えることは1つ――――


『『『え?――――また来るの?……』』』


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