第103話【決意の修行編その4】


【精神世界-場所-滝】


 辺りを見渡せば懐かしい景色が眼前に広がる。


 故郷シレーネに旅立ってから今まで、怒涛の勢いで押し寄せる事柄のせいか、すっかり忘れていたニッシャだったが


『何だかんだ、ここが落ち着くな……』と呟いていた。


 ニッシャは、再生したばかりの手足に慣れるため。


 ストレッチを行いながら泥で汚れた髪を日課の修行で使っていた〝滝のほとり〟で丁寧ていねいに洗っていた。


『私は、アウトガーデンで過ごしてたから慣れてるから良いけどさ、泥のせいで髪質痛むわ~――――まぁ死んでるから関係ないのかっ』


 泥にまみれた朱色の髪の毛は、指通りが悪くなっていた。


 透明度の高い清水を両手ですくって洗い流す。


 その度に汚れた水面が滝の流動と共にさらわれていくのを、懐かしいと感じながらもどこか感慨深いと感じる。


『しかしまぁ、死んでるのに安らげないこの感じ――――何だか不思議だな……私を私怨で殺した奴は、自身の命を省みずに危険区域に行っているらしいし、死んだ本人は魂になってまで勉強しゅぎょうさせられるしで、何だか考えただけで笑えてくるな』


 つくづく〝運〟が悪いのか、それこそ〝必然〟なのか分からないニッシャ。


 そうして考えたところで結局答えは見当たらず、濡れた髪から垂れ落ちる雫が、水面みなもに当たり水紋すいもんを形成する。


 それを呆然と眺めていると段々と見覚えのある物へと変わっていき、やがて――――ミフィレンの顔が映し出された。


 余程泣いたのか目元は腫れており、どこか虚ろな表情で何かを見つめている様子。


 声が聞こえるか解からないが、母親面するようで悪い気がしたけど言ってやった。


『よぉ、ミフィレン!!何、泣いてんだよ。可愛い顔が台無しだろ?あんたは小さいけど、どんな物にも立ち向かう強い子だし、短い間とはいえ今は、『私の子』だ。あんたのそんな顔、私は見たくないよ……』


 ニッシャの声が聞こえているのか、余計に大泣きするミフィレン。


 小さな幾数もの雫は落涙し、波紋と共に見えなくなった。


 思い詰める顔をしながらも、濡れた肩ほどの髪の毛を手櫛てぐしによって後方へ追いやる。


 そして、手の平で小さな炎をドライヤー代りにして乾かしながら呟く。


『私の子か……強くならねぇとな。人としてさ』



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