第54話【VS〝アイナ〟子育て日記二日目 終結編その2】

 そう言って近づいてゆき、治癒魔法で応急措置をされているニッシャの前に立つ。


 バルクスは床に片膝を着きながら脇に抱えたミフィレンを降ろす。


 感情的になって治療の邪魔にならないように、肩を震わせ止まらぬ涙を袖で拭うミフィレンを見る。


 そして、温もりを帯びた大きな手を使い、悲しみに暮れている子を優しく撫でながら言った。


「話は聞かせてもらったよ。君のママは曲がりなりにも、あの酒煙しゅえんほのおと呼ばれたドーマの後継者らしいね……道理で強いわけだよ。そんな女性がこんな所で死ぬ様なタマじゃない筈さ」


 同じ人を思う言葉が心に響き「うん……」と声にならない声で、小さく何度もうなづくと、小さな体はバルクスの胸を借りる。


 かじった程度の魔法では上手く筈がなく、イライラと焦りだけが積もってゆく。


「駄目だ、損傷が激しくて俺達の魔法じゃどうにもできないぞ!!」


「皆、ありったけの力を込めるんだ!!俺達の前で死なせはせんぞ!!」


 治療に専念する男達だが未だニッシャの鼓動は戻らず、擦り傷等の浅い傷が治るばかりだった。


 回復にも至らない状態が数分間続いていき、方法はもう残されていないかに見えた

 ――――その時だった。


「この人、朱天しゅてんほのおって言うんだろ??なら一か八か炎魔法でべるのはどうだ?」


 突拍子もない言葉だが藁にもすがる思いで、誰も反対する者はおらず、最善のアイディアと思われていた……が。


「それは無理よ――――」後方から声が聞こえ、皆の視線は眼を擦りながら、立ち上がっているアイナへ向けられる。


「勉強不足の貴方達に教えとくわ、レプラギウスが造り出す炎は特殊なの。ちょっとやそっとの魔法じゃ温めるだけで全く意味はないの。もっと強力な火力……それこその様に煮えたぎる程の魔力が必要よ」

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