第44話【VS〝弟子〟子育て日記二日目 組み手編その7】

 戸惑う装いや避けることもなく直進するニッシャ。


 高熱と数人分にも及ぶ魔力を肌で感じながら直撃を受けると、花弁が散るように火花が舞う。

 目標目掛け直線上に焦がしたレール状の跡から、大量の煙が上がり対象を包み込んだ。


「ついにあの女をやったのか!?」


「手を組んだ俺たちの完全勝利だー!!」


 道場自体を大きく揺らす歓声と、無邪気に互いを労い抱きつく様は、彼らにとって忘れられない青春の1ページとなったであろう。


 やがて煙が晴れそこに立ち尽くす人影には、目立った擦り傷、火傷は一切なく右指に挟むたった一本の煙草を正面に突き出し、それをおもむろに咥えるとこう言った。


「ん~、男同士で抱きついている所悪いんだけどさ……火球コレ本当に魔法なの?、火付け役にしては、火力足りなくて煙草も不味いぞ?」


 歓声が悲鳴に変わり再び逃げ惑うが、追いかけられることはなく、吸っていた煙草を人差し指で群れている男共に向かって放り投げる。


 空中を浮く煙草は、弧を描きながら数M先の汗まみれになっている床へ着床ちゃくしょう


 群れを一網打尽にする円状のファイアウォールが、唯一の逃げ場を奪う様に出来上がる。


 焦げた胴着のすすを払い、左手を腰に当てながら右手を高くあげ、挑戦者を募集してみる事にした。


「これでようやく半分っていった所かな?私とやりたいって奴いる?」


 蜘蛛の子を散らすように走り回ってた弟子達は、戦意喪失したのか道場のすみっこで身を寄せ合う様に固まっていた。


 目の前の惨状を震えるような体を、必死に押さえながら怯えて見ていた。


 腕を組みしばらく悩むニッシャは、で自分に不利なルールを勝手にもうけることにした。



「分かった!!じゃあこうしようよ、あんた達は各々好きな魔法の使用OKで私はを使わないってのはどうかな?勿論、抵抗や反撃は一切無しでさ!!」


 両手を上げ無防備の状態にある女に対し、ありったけの魔力を振り絞る。


 すると、火、水、土、雷などの属性系から毒や麻痺といった状態異常攻撃を駆使して挑んでみたが一歩も動くことなく平然と立っていた。


 胴着は数ヵ所程穴が開き、焼け跡や溶解した様子が見られるが本人は至って平常であり、元の優しい顔に戻ると腹から声を出し一喝する。


「教科書通りの戦術じゃ、今後絶対に部隊チームとしても個としても戦果は挙げられないぞ?ライバルに差を付けたければ、日々の修業に実りをつけ、武器となるまほうを磨き、身を守るにくたいを鍛練し、常に昨日まえの己を越えて行け。そうすればきっと努力が結果としてお前達を後押ししてくれるはずだ」


 耳を澄ませば、「姉さん……」や「一生着いていきます!!」といった声が多数着聞き取れる。


 身一つで向き合ってくれたその言葉が、心に響いたみたいだった。


 倒れていた弟子やファイアウォールを自力で脱出した者達は、後光差すニッシャをまるで天から舞い降りた女神の如く、膝をつき崇めていた。


 圧倒的な強さを前にしても依然として、観察を続けるアイナは、時折ミフィレン達に笑顔で手を振ったり「しっかり水分補給取るのよー?」と一声掛け、まるで母親のように振る舞っている。


「戦線離脱したとはいえ元部隊長様は、さすがに技術スキル才能センスは桁外れみたいね。んっ……私もそろそろ運動しようかしら――――」


 130cmの体は目をつぶり精一杯背伸びすると、深呼吸と同時に大粒の黒い瞳で獲物ニッシャとらえる

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