第101話【決意の修行編その2】

 流れる雫を抑えきれず、自分が哀れだと頭では解っていた。


 それでも溢れ出る感情は止まることを知らない。


 普段は弱音を見せず気丈に振る舞うニッシャでさえ、本心ではのだ。


 相変わらずの豪雨に加え、暗くよどんだ空気と不明瞭な視界。


 それにより、実感が湧かなかったのかも知れない……


 気持ちを言葉で誤魔化して紛らわそうとしたり、現実から眼を背け己自身から、逃れようとも思っていた。


 ――――後悔の念にさいなまれる中、声の主は変わらぬ口調で、〝今〟何が起こっているかをニッシャに告げた。


『外の状況が分からないだろうから、親切心で教えてやるが、今お前を蘇生させるために〝ノーメン〟〝セリエ〟〝バルクス〟、そして――――〝アイナ〟の四人が高危険区域の〝晦冥かいめい奈落ならく〟へ向かっている』


 幼い頃から周囲の人間にみ嫌われた事がきっかけで、今まで他人を信用してこなかった。


 誰かの為に行動を起こせないニッシャは驚きを隠せていない。


『ハァッ!?私が死んだ位で何でそうなるんだ?わざわざ死に急ぎやがって。そんで……そこには何があるんだよ?』


『一度消えた命の灯火は、精霊とて簡単に蘇らす事は出来ない。だが――――最深部に在るとされる〝えいえん〟ならば、一度失った命を再び吹き返す事が出来ると思ったのだろうな』


 それを聞いたニッシャは、〝今〟自身に出来ることを全うするため、わらにもすがる思いで懇願こんがんした。


『分かったよ、もう弱音は吐かねぇし、自分の大切な物は最後まで守り抜く……だから―――あんたが造り出した〝火速炎迅かそくえんじん〟と6の〝炎武えんぶ〟を教えてほしい。いつか私の思いを託せる炎の精霊と受け継がれてきた魂を残せる様にさ』


 再び覚悟を聞いた声の主は、小さく笑みを溢すと今後やるべき事をニッシャに告げた。


『6~9の段を使用するには、まずⅣ速を会得しないといけない。頼りすぎは本来なら、精霊と人間との境界線を崩すが、今はお前の〝頭の中〟だからな……魔力過多で〝精霊の暴走〟を起こすことはない筈だ。次はその点に注意しながら戦えよ?』


 人里離れた場所で生きてきた理由――――


 それは全て、己を守るため託された思いを隠すため、その信念だけはミフィレンと出逢うまで貫いてきた。


 ……だけど、あの子とのの出逢いによって、私自身の在りかたを見つけたんだ――――〝誰かの為に生きたいってさ〟。


 私は曇天の空へ向かって、水蒸気を上げながらを伸ばすと、こう言ってやった――――


『もう迷わねぇし、立ち止まらねぇ!!ひたすら前へ進み続ける』ってさ。


 その思いが届いたのか定かではない。


 雲を突き抜け柔らかな一筋の光が、これからの彼女を後押しする様に燦々さんさんと降り注いでいた。

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