第127話【奈落からの洗礼と復讐せし者その3】


身体硬化魔法ジ・マン・ボディ〟のバルクスにはどうすることも出来ない状態である。


 光がとどこおる闇の中で、自由落下していくおとこの唯一の生存方法は、神頼み――――いや、〝女神アイナ〟に頼る他なかった。


 明るく見通しの良い地上や、造作ぞうさもないその出来事さえ、餓鬼がき断壁だんぺきでは不自由を迫られる。


 先程の〝バルクスエキス〟により、とてつもない吐き気と頭痛に悩まされているアイナは、落下してくるバルクスへの対応が遅れてしまっていた。


 アイナは、瞬時に落下してくるのを察知していたが、暗闇の中で出来ない範囲の魔法は難しく、加えて考えている余裕は既にない。


 空中で暴れるせいで体液が下方へ散布され、非情にも無防備なアイナを襲い、上を凝視する故にモロに食らってしまう。


(しまった……眼にもが入ったわ――――このままじゃっ当たるっ……!!)


 咄嗟とっさにアイナは、目の前で腕をXクロスさせて、防御の姿勢に入る。


 抑える限界が訪れたバルクスは、左手で掴んでいた、〝風速林檎スピードアップル〟を


 二人が接触寸前――――


 為す術がないおとこを救ったのは、アイナの魔法〝幼子の悪戯チャイルドミスチフ〟である。


 林檎が肌へと触れる瞬間に、林檎経由でバルクスに魔法を使用した。


 林檎はバルクスの手から離れた事により再び加速を得た。


 アイナの腹部目掛けて落下していき、視覚が遮断されるに加えて、強烈な痛みが腹部を中心に体全体を駆け巡る。


『ぐっ……そんな――――』と言い残したアイナは、激しく岩肌へと叩きつけられながら落下していく。


 アイナとの立ち位置が入れ替わったバルクスは、まるで重力が下へ向いているかの様に自然に立っていた。


 直ぐ様アイナの魔法だと気付いたバルクスは、不思議そうに体を見回し、地面の感触を足で確かめる。


 まるでが、体を包んでるかの様に、バルクスの心は故郷の〝母〟を思い出していた。


『この聖母の様な温もりと慈悲深い感覚は……麗しのアイナさん!?』


 その声は本人に届く事はなく、暗闇の中で天地も分からず岩肌を転げ回るアイナ。


 バルクスに割いた魔力のお陰で、岩壁からの接触を避けるために、身を被う魔力分しか残っておらず、それが彼女の精一杯だった。


 この絶体絶命の中で、もっとも頼りになる人物は、居ないだろう――――そう、ノーメンだ。


 だが、奇跡的な不幸は三度と重なり、気分が良いノーメンが鼻歌まじりに跳躍をした隙に、落下するアイナがタイミング良く高速通過してしまった。


(ん?……何か通ったか?――――まぁ、いいか。それにしても下るの楽で良いな!!)





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