第22話【子育て日記2日目】(精神の滝編その1)

 満腹感と一時いっときではあるが心が満たされているのを感じながら、目の前を歩く小さな人がだんだんとヒートアップしていく。


 怒られ続けること10数分後、私は久しぶりの口呼吸と共に一本だけ許された煙草をありがたく吸いながら胡座あぐらをかき、目先の光景をただ呆然ぼうぜんと眺めていた。


 説明すると長いのだが簡単に伝えるとするならば……屋敷にそぐわない場所ってところかな。


 部屋の手前でズラリと並ぶ衣装部屋で三人共、好きな水着に着替えた。

 いつも通り髪を後ろで束ねたミフィレンとラシメイナは、全身をおおう蒼と金色のボーダー柄の一枚物を着用させた。


 肝心の私はというと、露出度少なめで上下白色だけのシンプルな水着を選び、ビーチボールと浮き輪を小脇に持っている。


 隣で二段上がった床に腰掛けているアイナは、くるぶしまで足湯のように浸かっていた。

 そして、片手で優雅ゆうがに紅茶を一口飲みながら、平然とこの状況を楽しんでいる。

 紫色のサングラスを頭に乗せている黒髪ボブが言うには、部屋の広さは40M四方で手前から10Mは比較的浅いため小さな子どもでも安心らしい。

 部屋の最奥に滝があり、高さ10M幅30M深さ120CMで人工的かつ一般家庭仕様の精神の滝って部屋らしい。



 ――――〝滝行の部屋〟――――


 水の温度は人肌と同等で設定されていて、小さな子どもでも沈まない造りになっており、胸元辺りになると浮力が働く仕組みになっているらしい。


 水着に着替えた赤子とミフィレンは、楽しそうに水遊びをしていてそんな幸せそうな光景無を眺めながら吸う煙草は、「旨い!!」そう染々しみじみと感じていると、アイナが口を開く。


「貴女疲れているでしょ、リラックスついでに子ども達と遊んできたら?いいから思う存分楽しんで来なさいよ。」


 時折ため息をつき遠くを見つめており、毅然きぜんとした態度でそう言うとティーカップの中の紅茶を時計回りに動かしだす。


「いや……お前アイナ!!」


「へ?ちょっ……下ろしなさいよ!!ねぇ!?」


 そう言って、アイナを肩に担ぐと多少の抵抗はされたがミフィレンたちの方へ放り投げる。

 着水して飛び散る「水飛沫みずしぶき」と粉々に砕け散るサングラス。

 それを見て笑う子ども達のおかげで、ずぶ濡れのアイナも少しだけ笑っている気がした。

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