第71話【誓いの前日編その8】


(俺の聞き間違いじゃなければ、今……ノーメンにセリエって言ってたよな?アイナさん含め四人でこれから危険地帯へ行くのか……勢いで立候補したが心配でしょうがない)


 バルクスは恋心に似た鼓動の高鳴りと緊張のあまり、無心で子ども達のデザートを震えながら鷲掴みにしていた。


 勢いで放り込むが呑み込むのも忘れ、大きな口一杯に頬張っていた。


「それ私達のだよー?アイナ見てよ、おじさんが私達の分食べた!!」


 指を差しながらミフィレンがそう言うと、赤子を抱いたアイナが静かに立ち上がる。


 バルクスの背後に立ち喉に詰ったのか苦しみで悶える首の後ろを、背伸びしながら手刀で突く。


「ヴッ!!」と低い音がし、電源が切れた機械の様に顔を皿へと打ち付けた。


 その衝撃により、色とりどりの果物が宙を舞い、それを見かね口を開けたミフィレンの元へと次々に入っていく。


「おいひー!!」と微笑みながら、ほっぺたが落ちると言う言葉が似合う程、幸せで顔が緩んでいた。


 バルクスを気絶させたアイナは、セリエ達に無言で椅子の方へ座る様にうながす。


 歩きながら顔を隠していたローブを取り、翠色の髪の毛が軽やかになびいていた。


 二人はアイナの正面に着席しすると、ミフィレンの横にはノーメンが、その横にはセリエが機嫌悪そうな顔をしながら口を開けた。


「んで?俺達四人で晦冥の奈落に行く訳だが、チビッ子二人の世話は大丈夫なのか?なんなら、おたくら居なくてもこっちとしては荷物少なくて助かるんだが?」


「余計な気遣いはいらないわ、ここには優秀な弟子達がいるもの。そんな事より自分達の心配をしたら?海中で溺死なんてなったら、魚の餌になってしまうわよ?」


 売り言葉に買い言葉が交わり、「あ゙?」と互いに息を合わせた様に重なりあう。


 それを見たノーメンは(二人共仲いいな……)とマスクの中で微笑んでる気がする――――


 と、ミフィレンは口に溜め込みながら思っていた。

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