第3話【初めての都へ】



 (これから都へ行くわけだが、その過程は長い道のりで、私なら魔法を使用すれば直ぐ着く。だけど「あれ」は魔力を高回転させる分、身体能力を飛躍的に上げる分、体への負荷が凄まじく2速以上はあまり使いたくない)


 だが、小さな絵描きさんはそうは、いかない。

 毛皮のリュックに食材と日用品をいれたのを持たしてある。

 小柄なせいか、リュックが大きく見える。リュックが背負ってやってるって感じだな。

 兎が余程遠くまで飛ばされたのか入り口付近までの一直線上は灰になり少し粉っぽい。

 巻き添えを喰らった物も多いだろう。

 ミフィレンが先へ先へ歩くなか、私は時折立ち止まり、黙祷を数秒しては、また歩き続けた。

 歩きづらい獣道が人工の遊歩道になっていた。

 住み処から、2時間ほど歩いた頃には、よたよたと右へ左へおぼつかない状態だった。

 当たり前だろう、大人でさえ根を上げるこの距離をまだ年増もいかない子どもが歩いているのだから。

(毛皮から、顔をだしている滝魚がこんにちわしているのは一先ず置いといて)1つ結びの髪の毛がゆらゆらと揺れていた。


 暖かい日差しが森を照らし、木漏れ日が気温を下げ涼しさを感じながら二人は歩く。

 あの出来事以降静まり返ってしまったのか、小さな動物達の鳴き声や吹き抜ける風の音しか聞こえない。

 通常なら、こんな小さな子と真っ昼間に出歩けないのだが今はそれを楽しんでいる。



「疲れた」とか「足が痛い」等文句も言わず良く歩くものだ。

 どこにそんな小さな体にパワフルさがあるのやら……


 道中、木陰になっている小さな切り株に座り、ミフィレンに持たせたお手製、木製水筒で水分補給をする。

 道中、食料調達ついでに滝で汲んどいて助かった。

 柄にもなく「ぷはーっ」とか言ってしまった。

 こんなに、歩いたのは久しぶりで体が水分を求めていた。

 私のと同サイズの水筒を持ちそれを見て真似するお前は本当に可愛かった。

 ちょっとバカにしてる感じで誇張してるのがムカつくがそれも旅の思い出にしまっとこう。

 そこで、ミフィレンの腹の音が鳴り、顔を見合せ、含み笑いをお互いにした。


「朝からなにも食べていないな。腹が減ったから、食べようか」


 リュックから、日持ちさせていた生肉と滝壺にいた魚を二人分取り出す。


 生肉は、縄張り争いの中で怪我をした猛獣を仕留めたもの。

 魚は、滝水が綺麗なお陰で、小さな魚達が集まり比較的楽にとれた。

 途中、ミフィレンが水に向かって手を振ってたのだが何かいたのか?


【調理開始】小さな火を右手から出し、味付けをした食材を左で添えるように、挟み込む。

 わずか2秒で、焼き物の完成だ。

 最初の時は、火力を間違えて大量の炭を量産してたっけ……私も器用になったもんだ。

 アツアツの肉と魚、森に生息している野草を摘み取りミフィレンの木皿へ盛り付け、簡易的だがお子さまプレートのようにした。


(本当は外で料理をすると、匂いが周囲に広がり猛獣が寄ってくるのだが今日は大丈夫みたいだ)


 手掴み一口で魚を丸々「ボリボリ」食べる私を見て、また真似をしたが骨が詰まったのか「ケホッ」と咳き込んでいた。

 それを見て笑う私とトマトのように真っ赤になる顔で腹がよじれてしまうほど爆笑した。


 本当に食いしん坊で、持ってきていた食材の4割はミフィレンのお腹へいってしまった。

 しまいには、私のご飯をも眼を輝かせ見る始末だが、食欲があるのは良いことだ。

 協会に行くはずなのに、半ばピクニックの様だった。

 幸せな昼食が終わり、再び歩き始め一時間が経った頃、やっと森を抜けることができた。ここからがまた長いのだが、そこから都へ続く山道をず~っと歩き続ける。

 森のように日陰がないため森に生息している大きな葉っぱを日傘変わりに使う。

 一息休んでは、進むを繰り返し、陽も暮れニッシャの火だけが街灯代わりになったころ。

次第に疲労が見えてきた。


 小さな背中を後方で見守る私は、いきなり止まった事に驚いた。


「ん?ミフィレン?まさか……」

 私は立ち尽くす、小さな背中からぐるっと正面へ回り込むと、頭が「ガクッ」と下に向いていた。


 バックは落ちないようにしっかりと両手で持っている(えらい!)


 片膝立ちになり、顔を照らし耳を澄ますとスヤスヤと眠っていた。


 やれやれと一息つき、背中に背負って歩くことにした。

 たくさん食べたせいか、少し重くなっていて、成長をしみじみ感じていた。


 都までは残り30分程。

 魔法を使えば、5秒ほどで着くのだが気持ち良さそうに眠る横顔を見ていたら、案外歩くのも悪くはないかなって。


 到着するまでの間色々感慨深かった。

 これまでのこと、何故滝にミフィレンがいたのか、このまま一緒に居ていいものなのか。疑問は尽きなかった。


 そうこうしているうちに約5年ぶりとなる。

 私の故郷である都【シレーネ】へ着いた。


 5年前よりも都市開発が進んでおり、夕方をピークに商店街は活気に包まれ、見上げるほどの建造物が立ち並ぶ。

「相変わらずデケェな」

 奥には一際大きな建物が垣間見える。


【魔法協会】


 スヤスヤと眠っていた子は先程とはうってかわって、音にびっくりし起き上がるとニッシャの目線と同じように見えた、そこには見たことない、灯りや建造物の数々が視野一杯に広がる。

 活気や食べ物の匂いに心を踊らせると、道中の疲れも相まってか私の左肩に滴るヨダレが地面へ「ポタポタ」と垂れる。

「こらこら。またお腹すいたのか?このいやしんぼめ!!」

 左頬をつつくと、「ニシシッ」と笑いだす。

 初めて、森の外へでたミフィレンは先程の疲れた表情が嘘のように、まん丸笑顔で眼を輝かせた。

「さぁ、いこうか!!」

 ゆっくりと歩き出し、協会へは、後日としてまずは疲れを癒すため宿を探すことにした。


【宿屋】

「いらっしゃいませ!!」

 大きな声と共に、カウンターで男が立っている。

 手際よく、二人部屋をとり部屋番号を入力してある腕輪をはめ、転送魔法で部屋へ向かう。

 目の前で次々と消え行く人を見て怯えた表情になっていた。

 転送魔法は勿論初めてなので、凄く躊躇している小さな背中を押すと、コケるように顔から突っ込む。

【シュンッ】と清音がすると、小さな体は一瞬でその場から消えた。

 後を追うと、外の景色が覗ける5M四方の大きな窓にそれを独り占めできるかの様な、私でも足が届くベットがあった。


 景色は良好、それでいて部屋も広い森と比べたら満点だ。

 先に着いたミフィレンは、言葉を失ったかの様に呆然と立ち尽くしていた。

 目の前で手を振るもピクリともしない、俗に言う、目が点と言うやつだ。

 私は、動かぬミフィレンを動かすため喜びそうなことを言ってやった。

「ミフィレン今日はお疲れ様。今は好きな物食べて好きな事していいぞ」


 その言葉を待っていたが如く、足早にベットへ飛び込むとゴロゴロとベットを転がり回った。

 私の言い方が悪かった。

 ベットには毛皮の毛が大量に付き、自然な毛布になった。

 転がり回ったお陰で、静電気により小さな体は毛玉の化身の様になっていた

「はぁ……」小さなため息をつき

「まずは、風呂と衣類だな」


 ベットは任意のボタンを押すと瞬時に新品に入れ替わる。

 毛玉を風呂場に連れていく。

「そういやちゃんとした風呂に入るのも初めてだよな?」


 いつもは、私特性の木風呂で自身で温めたたから、加減がわからなくて嫌がってたっけ。


 毛玉を優しく取り除き、上から流れ出るお湯で体を濡らすと、余程気持ちいいのか「トロンッ」とした恍惚な表情をしていた。


 初めてののシャンプーを行い、イタズラで全身泡だらけにしてやったら満更でもない様子で鏡の自分を見て興奮してた。

 自動温度調節の湯船に浸かる。


 足の長い私でも広々とした浴槽で、足を伸ばした私の膝に座り顔を見合せる。

 お互いに「お疲れ様」だとか他愛もない会話をした。


 簡易的な寝間着に着替えベットに座りこみ、都の景色を眺めながら、いつも通り私の魔法で髪を乾かした。


「本当に、癖が強い毛だなぁ。どっち似なんだろうな?」

 私は流れで言ってしまった。


 それを気にしたのか。鏡に写るその顔は少しうつむき加減で口を膨らませていた。


 眼を盗んで、乾かしがてら煙草を吸おうとしたら、防災システムにより消されてしまった。

 夕飯も宅配魔法で取り、就寝する。


【翌日】


 部屋着では、外へ出れないので、ベットに寝そべりながら二人分の服をカタログで見る。

 最近は便利になったものだ、自分自身が壁に投影され着せ替え人形が如く様々なアイテムを身につける事が出来、気に入れば後払いで購入し即着用が出来る。

 肩にかかる朱髪は毛先にウェーブをかけ、服装は私があまり派手な物は好まないので、「肩」「へそ」「足」「胸元」が出ている比較的ポピュラーな黒のドレスにした。

 子どもの事はわからないので私の趣味にした。髪の毛はいつも通り後ろで結い、上品に見えるよう、丸い帽子を被せた。

 右の【蒼い】瞳と左の【藍色】の瞳、【金色】の髪の毛にちなんで、全体的に藍と蒼にアクセントで金色のラインを入れた。

 自分自身を見て余程気に入ったのか。鏡を指差して満足そうに「ニコニコ」していた。

 我ながら、良いセンスに感心した。


 チェックアウトを終え、協会へ赴く。


【協会】


 履きなれない、ヒールのかいあってお陰で+10cmは高い。

 いつも以上に見上げているせいか首が痛そうな表情をしている。

「コツコツ」と甲高い音が階段により響き渡る。

 その妖艶さに振り返る輩はその美しさのあまりため息混じりの笑みを浮かべ、その下に目をやると小さな子どもを見て2度目のため息をする。

 私は、勝ち誇ったように見下すと視線を独り占めした。

 沢山の人が行き交う協会では少し怖がっているミフィレンの手を優しく握ると安心したみたいだ。

 すれ違う者は、皆協会役員か見学をしにくる者だろう。

 豪華なバッチをしているのが役員で、簡易的な名前入りバッチをしているのが見学だ。

 まぁ大体がお偉いさんだろうよ。

 常時開放されているため、一般も観光がてらやって来るのだ。

 私の朱色の髪の毛を見て奥で「ざわざわ」していたが気にも留めなかった。

 柱の横で腕を組み何やら、良く見たデカイのが――――


 あの時、偉そうな事言って、ポンコツ具合を遺憾なく発揮した、ボロ雑巾ノーメンさんだった。

(ようやくきたか、早く来い。奥でお偉いさんがお前を呼んでいるぞ。)と言っているように見える。

 人差し指を「チョイチョイッ」と前方へ曲げ、着いてこいと言わんばかりに、足早に歩き始める。


「はぁ~、めんどくせぇなぁ~!!」

 太もも辺りのドレスに仕込んでた、煙草を一本咥えながら歩く。

 ふと横目で見るが、相変わらずミフィレンは無言の仏頂面であり、余程緊張しているのか、同時に手足を動かし「ギコチ」ない。


 私は協会人ではないから、三人で歩いてこの広い協会にある。【応接室】とやらへ向かう。


 ノーメンもミフィレンも何も話さないから退屈で、煙草を吸ってまぎらわせた。


「「ケホッ」、ニシャむい……」

 不機嫌そうに、睨み付ける。


「なんだ?反抗期か?可愛いやつめ!」

 煙を近づけては、嫌がるのを笑いながらやっていたら加減を間違えて目的地へ着くまでの道中、暫く口を聞いてくれなかった。

 子ども特有の「アレ」だと思い適当に受け流した。


「それにしても、昔から変わってねぇのなココ。お前、いつもこんな硬っ苦しいところいるのか?」

 目の前を、無言で歩くデカイのに話し掛けるがまた無視された。

(まぁ、ここに思い出何て微塵もないけどな)

 そうこうしている内に着いてしまった。


(着いたぞ。ちなみに俺の好物は落花生だ)

 と言っているように見えた。表情見えないけど。

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