第72話 跡
「んくっ、んくっ……」
それを言われた通り嚥下すると、俺の体には魔力と生命力が戻ってきたようで、巻き戻したかのように一瞬にして体が再生していく。
「これは……」
「フンッ。しぶといやつめ」
どうやらドラゴンの血は人間の体一つ治すのは造作もないようだ。そして、カルナヴァレルは自分で治したくせに悪態をつくと俺を突き放し、立ち上がってそっぽを向いてしまう。
「ジェイドさん、主人がご迷惑をかけました。フフ、でもジェイドさんが主人に認められて良かったです。ほら」
カルナヴァレルの横にはいつの間にか白髪で長身の美人が立っており、頭を下げてくる。フローネさんだ。そして俺の左腕を指さす。
「……歯形」
他の傷は綺麗に治っているのに、なぜか左腕を抉られたところだけは歯形の跡が残っていた。
「これで、うちの主人とジェイドさんはお友達ですね。うちの家族が今後もご迷惑をおかけすると思いますが、どうか主人と娘をよろしくお願いします」
そして再度深々と頭を下げられた。
「い、いえ。こちらこそ、色々とご迷惑をおかけしました。その、キューちゃんは絶対に守ってみせます」
礼儀正しいドラゴンに恐縮し、俺も深々と頭を下げる。そして隣のカルナヴァレルはと言うと──。
「フンッ。人間にしては骨があるというだけだ。ドラゴンと対等だと思うなよ! それとその言葉忘れるでないぞ! もし、エルに何かあったらタダではおかんからなっ!!」
最後までそっぽを向きながらそう言うのであった。
「フフ、本当に素直じゃないんだから。じゃあアナタ帰りましょうか。エル?」
「キュー!!」
そしてフローネさんはキューちゃんを呼ぶ。すぐさまキューちゃんはその胸に飛び込んでいった。
「エルいい? 変なものを食べないこと、ちゃんと歯を磨くこと、嫌がらずにお風呂に入ること、あとは友達を大切にすること。分かった?」
「キュー!!」
「うん。いい子ね。それじゃミコちゃん、ジェイドさん、皆さんもご迷惑おかけすると思いますが、うちの娘をよろしくお願いします」
「はいっ、絶対にキューちゃんのこと大切にしますっ!!」
そして、ミコが歯を食いしばりながらそう叫んだのを見届けて、フローネさんとカルナヴァレルは次元の狭間へと帰っていった。
「…………ふぅ。ハハ、生きてたな」
そして俺はようやく体の力を抜き、地面に大の字に倒れこむ。それを上から覗き込むのはミーナだ。
「ジェイドのバカッ、バカッ!」
「アハハハ、いや、今回ばかりは死ぬかと思ったな」
そして涙を流しながら、俺を抱きしめてくる。少しばかり苦しいし、痛い。だが、それは今言うとまた空気が読めない男扱いされてしまうからな。しばし、なされるがままでいる。そんな俺たちのところへ自然と皆が集まってきた。最初に口を開いたのはエメリアだった。
「みんな、本当にすまない。私は皆の命とこの世界を危機に
それは謝罪と贖罪の言葉であった。ただ、その言葉は俺たち全員が思うところであるだろう。
「よっこいせっ、と。ふぅ、だな。もう無茶はこれきりにしたいもんだ」
「あぁ、そうだな。でも生きててよかった。そう言えば、金髪の彼にも随分と──」
アゼルが言ってるのはブリードのことだろう。俺も起き上がり、辺りを見回してみるが姿は見えない。いつの間にか現れ、いつの間にか去っていったようだ。
「……謎の男だな。だけどどうやってここまで来たのだろうか?」
そこでふと疑問に思う。どうやってこのダダリオ山まで来たのかと。まさか彼も次元魔法が使えるわけでもあるまいに。
「まぁいいじゃん。そんなことよりおっさん! どうゆうことだよ! アゼル様と知り合いだったのかよ!」
「うげっ」
ついに来た。戦闘中はそんなことを気にしている場合ではないから普通にアゼルって呼び捨てにしてたし、そりゃまぁバレるだろう。
「センセイ。それより私はミーナ先生とセンセイの関係の方が気になる。お互い呼び捨てだし、ミーナ先生なんてまるで恋人のようにセンセイのこと心配して、抱きしめてた。ていうか今も」
「あっ、実はミコもそれちょっとだけ気になってました」
「「え?」」
俺のすぐ側で寄り添うように立っていたミーナと顔を見合わせる。確かにミーナも俺も呼び捨てにして……。うーむ、最後の最後でボロが出てしまったようだ。だが、決して恋人ではない。なので、そこだけは否定しておく。
「恋人ではないっ! ただの幼馴染だ! なっ、ミーナ?」
「……そうですねっ。ジェイドせ・ん・せ・い」
だが、ミーナはなぜか不機嫌になり、ぷいっとそっぽを向いて離れていく。その顔は怒っていた。恐らく指摘されたにも関わらず名前を呼び捨てにしたせいだろうが、今更だろうと思う。しかし、ここで反論すればまた怒られるだろう。なので黙っておく。俺も成長しているのだ。
「なー、おっさん! どうなんだよ!」
そしてレオはレオで食い下がってくる。誤魔化すのは無理であろう。
「あー、そうだな、うん。正直に言おう。アゼルと俺とまぁついでにエメリアは同級生だ。クラスメイト! というわけですまんっ!」
「レオ君すまない。君を騙していたことを謝る。この通りだ」
俺とアゼルはレオに向かって頭を下げる。
「……アゼル様はいいよ。どうせおっさんに言われてしょうがなくだろうし。でも、おっさんは何で嘘ついたんだよ!」
「……いや、初日に俺がアゼルのことをバカにしたとき、お前が真剣に怒ってるのを見て、俺はアゼルの友達だからって言ってしまったらお前の立つ瀬がないと思ってな……。まさか、レオと一緒にアゼルと会うなんてそのときは思ってもみなかったから。軽はずみに嘘をついてすまん」
俺の答えにレオはブスッとした表情で腕を組んだまま、黙り込む。
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